映画祭で日本初公開される「唯一、ゲオルギア」(94年)は、旧ソ連が崩壊に向かい、政治が混迷を極め内戦が勃発したゲオルギア(ジョージア)にイオセリアーニ監督が真正面から向き合った作品だ。「祖国がなくなるかもしれない」という切迫した思いから製作され、たどってきた歴史や文化に迫りながら、ジョージアという国の独自性を色濃く映し出した。
「タイトルにある『唯一』という言葉は、『他とは比べられない』という意味と私は捉えました。ジョージアはジョージアという国でしかなく、非常に個性を重視した国であり、それがまた一つの個性である。それこそ監督自身が伝えたかったことなのではないか、と思います」
自国の歴史に迫ったドキュメンタリーではあるが、ジョージアンダンスと呼ばれる伝統舞踊や演劇など、芸術についても丁寧に描かれる。
「ジョージアは文化、伝統がとても特徴的な国」とレジャバさんは言う。
「様々な情報が行き交う地域ということもあり、自分たちを証明するもの、自分たちはどういった人間なのかを定めるための指標の一つとして『文化』があると思います。精神が強く、個も強い民族であるため、芸術という分野に表れやすいという面もあるのかなと感じます」
■ワインも文字も独特
北はロシア、南はトルコ、アルメニア、アゼルバイジャンに接する。地理的に、さまざまな国の影響を受けやすいなかで、いかに自分たちを見失わずにいられるか。そうした精神がおのずと培(つちか)われていったのではないか、という。
「自分たちを証明したいという欲求は、人間誰しもが持っていると思うので、単純に比較することはできませんが、ジョージアの人々は自分たちの性質をうまく文化に落とし込んできたと思います。ワインの醸造法も特徴的ですし、ジョージア文字も独特です。当然、厳しい歴史を歩んできたという背景もあります」
「唯一、ゲオルギア」では、内戦や旧ソ連による支配といった厳しい歴史についても触れられ、それらの映像は現在のウクライナ情勢を想起させる。ジョージアの人々は、ウクライナの情勢をどのように見ているのか。