「奥の部屋には“タワー長”という会場全体の責任者がいるんです。中座するのは、実はその人に状況報告をしに行くため。『もう一押ししろ』とか『100万円ぐらいの壺にしておけ』とかの指示、助言が与えられるのです」と、D子さん。
「先生が不在の間にポロッと客が重要な告白をしますね。今度は私が中座してタワー長に報告する。『電話です』などと先生が呼ばれ、タワー長からその内容が伝えられる。先生は素知らぬ顔で戻って来て、『まだ隠していることがあるんじゃないですか』と客に迫るわけです」
「拝みに行った」はずの奥の部屋の内部は、次々に報告に来る「先生」や販売員が入り乱れ、タワー長の罵声が飛ぶ。一隅では「客が壺を授かりますように」と祈る祈祷団もいて、異様な騒ぎの世界だったという。
印鑑の戸別訪問に始まりS展と呼ばれる壺展や、多宝塔と組み合わせたW展へ、さらにマナ展と呼ばれる高麗人参濃縮液などを売る展示場への勧誘、と進むのが通常のコース。売り上げ一億円以上をめざすのが“億展”という。「ずるさも天の知恵。神様に貢献しているのだから、と信じ、当時は心の痛みを感じることはなかった」と、D子さんは言った。
■迷い許さぬ上部指示
中部地方の元教会員の一人は、『汽車ポッポ』の替え歌を教えてくれた。毎朝、印鑑売りに出かける前の“出発式”などで合唱し、景気をつけたという。こんな歌詞だ。
カネ、カネ キャッシュ、キャッシュ 現金、現金 キャッシュッシュ 僕らはやるぞ 現金、現金、キャッシュッシュ S展、億展、勝利するぞ 畑も売る売る 家も売る おかあさん、がんばろう、がんばろう 浄財だ、浄財だ うれしいな
「万物は神のもの。すべて神へ返さなければいけない。金は万物の象徴。買う人が自分のものをすべて捧げることが、本人にとっても幸福なのだ」との教えに従う人々がこう歌っていた。
E子さん(24)の受け持ち区域は、東京近郊だった。1カ月間印鑑売りの研修を受けた。教えられる内容はD子さんの語るノウハウとほとんど同じ。最初の1週間は午前中だけ講義とロール・プレーイング(役割を演じての実習)があったが、2週目以降は朝から晩まで外に出ての印鑑販売に追われた。