安倍晋三元首相銃撃事件を機に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政界の癒着が次々と明るみに出ている。そもそも旧統一教会が話題に上ったのは1980年代。印鑑や壺(つぼ)などを高額な値段で売りつける「霊感商法」が社会問題となった。そのきっかけとなったのが1986年に「朝日ジャーナル」が始めた霊感商法追及キャンペーンだった。当時、問題視された旧統一教会による霊感商法とは、どのようなものだったのか――。ここでは、朝日ジャーナル1986年12月5日号に掲載された記事を紹介する。
※以下に記載された年齢、所属、肩書きなどは、すべて当時のまま
* * *
■呪術地獄を演出した巫女たちの証言
「因緑」や「霊能」を説いて印鑑や壺、多宝塔を売っていた体験を持つ数人に会った。どの人も、世界基督教統一神霊協会(統一教会)のかつての会員や信者だった、と自らを語った。彼らの話した「売る側の体験」は、被害者の目には神秘的とも映った霊感商法の舞台裏をさらけ出す。
東京の下町で印鑑売り中心の戸別訪問をしていたD子さん(23)は、先輩と二人で歩くうちにノウハウを身につけた。
訪問先では、ある観相団体から来た、と名乗る。手相を見たあと、「姓名判断もしてみましょう」と家に上がり込み、先祖の因縁を絶たねば大変だ。そのために印鑑を、と話をもっていくんです」とD子さん。
夫の浮気は色情因縁のため。先祖が武士なら殺生因緑。過去の誘拐事件の被害者の実名を挙げ、「その七代前の先祖の犯した悪事の因果が報いたのです」と説くセールストークも教えられた。
D子さんによれば「効果的なのは“水子トーク”。水子いませんでしたか、と単刀直入に聞くんです」。相手の弱み、財産などをできるだけさらけ出させる。
印鑑は「入り口」にすぎない。再訪し今度はもっと高価な壺や多宝塔の展示会へ誘う。
展示会場で「先生」を紹介する。先生には事前に客の身辺の情報を伝えてあるから、初対面でもすでに「お見通し」だ。ふれこみ通り、客は先生を「霊能者」と思い始める。先生は途中で「神様に拝んでうかがって来ます」などと中座して奥の部屋に消える。