9月7日から海外から日本に入国する際の水際対策が緩和される。外国人観光客は、添乗員を伴わないパッケージツアーも認め、対象も全ての国・地域に拡大される。入国者数も引き上げられ、3回のワクチン接種を条件に、陰性証明書の提出が免除されることになった。しかし、しばらく前からアジアでは、この陰性証明書の偽造が横行していた国がある。
車の部品メーカーに勤務するDさん(52)は7月下旬、タイに出張した。タイはワクチン接種証明があれば入国できたが、日本帰国時には、現地でPCR検査を受け、その陰性証明書の提出が必要だった。現地法人の社長に相談し、「ここがいい」と紹介されたのが、あるクリニックだった。
このクリニックの検査代は1500バーツ、約6千円。一般の病院で検査を受けると4千バーツ前後(1万6千円近く)することを考えると破格に安い。さらに現地法人の社長は、「証明書フォームに自分で記入するシステムだから心配ありません」と説明した。
「自分で記入する?」。その意味がわかりかねたが、Dさんは帰国前々日、そのクリニックに向かった。
代金を払うと白紙の証明書フォームを渡された。クリニックのスタンプやサインはすでに記入されており、検体採取後、こんな説明を受けた。
「検査結果は明日、メールで送ります。その内容を証明書フォームに記入して提出すればOKです」
翌日、検査結果が届いた。陰性だった。それを自分で証明書フォームに書き込み、MySOS(入国者健康居所確認アプリ)に登録した。MySOSは厚生労働省が導入した、帰国や帰国後の待機などに使われるアプリだ。これに登録すると、帰国時の審査が簡略化される。その作業をしながら、Dさんにひとつの疑問が生まれた。
「仮に陽性でも陰性と書くことができてしまうじゃないか?」
現地法人の社長に聞いてみた。
「そうなんです。大きな声じゃいえませんけど、バンコクでは周知の事実です。陽性でも陰性にチェックを入れて帰国できるんです」