台湾人の顧客が約8割を占める、台湾の不動産仲介最大手の信義グループの日本法人、信義房屋不動産にも聞いてみた。
「円安を背景に不動産を買い求められるお客様が増えました。ただ、エリアによって状況は異なります」
同社が扱う不動産は主に東京と大阪だが、人気は資産価値の高い都心の5区(港区、中央区、新宿区、千代田区、渋谷区)の物件に集中しているという。「8000万円前後の物件を購入する人が多いです」。
一方、欧米など英語圏の顧客向けに不動産ポータルサイトを運営するリアルエステートジャパンによると、1月の問い合わせ件数は165件だったが、6月には433件と倍以上に増加した。特に3月中旬から為替レートの変化に連動するかたちで大幅な伸びが見られるという。
人気のエリアは東京都、大阪府、神奈川県、京都府だが、「4月以降は北海道、沖縄県、長野県といったリゾート地のバケーションハウス用途の問い合わせが増えてきました」。
人気の物件は3000万円以下のマンションだが、1億円以上の物件も伸びている。
「外国の方はローンを組むのが難しいので、キャッシュで購入されます」(リアルエステートジャパン)
上限引き上げはポーズか
取材を進めると、前述したように外国人観光客の姿は少なく、円安の恩恵を受けているのは外国人富裕層と一部業界に限られていることを強く感じた。
韓国最大手の旅行会社ハナツアーの日本法人によると、「6月10日に外国人観光客の受け入れが再開されましたが、弊社の現況としては、コロナ前と比較してまだ5%程度の回復にとどまっています」。
3カ月前、訪日観光が再開された際、外国人観光客の増加を期待させるような報道があふれた。しかし、観光マーケティングの研究が専門の東徹・立教大学観光学部教授はそれに対して違和感を覚えていた。訪日観光客が微増にとどまる現在の状況をほぼ正確に予測していた。
「海外旅行マーケットの動向はOD、つまりオリジン(出発地)とディスティネーション(目的地)、双方の関係で見なければなりません。つまり、受け入れ側がいくら『ウェルカム』と言っても、送り出す側がオープンでないと観光流動は生じません」
19年の訪日外国人旅行者3188万人のうち、50%超が中華圏(中国、台湾、香港)からの旅行者だった。
「なかでも1人当たり消費額がダントツに多いのが中国からの訪日客です。ところが今年7月に中国からの旅行者は19年同月と比較してマイナス98.6%でした。お得意様として最も大きな国の出国の門が閉じたままびくともしない。みなさんが期待しているような円安消費が起こらないのも無理もないことです」