しかし実はそのトラちゃんは妊娠していて、しばらくすると6匹もの子ねこを産みました。引きとってもらう時には妊娠の初期の段階でしたので、お腹も膨れておらず、わたしは全く気づかなかったのです。わたしはその方から散々怒られて、「わたしは絶対にあなたをねこ博士と認めない」とまでいわれてしまいました。それでもその方は、6匹の子ねこのうちの4匹の里親を探してくれて、さらには、もらい手のなかった残りの2匹の子ねこ(どちらもメスで、名前は「ツル」と「カメ」)を自ら引き取ってくれました。結局、母ねこと娘2匹の、合計3匹のねこを、その方がもらってくれたことになります。

■瀕死の状態でも娘ねこの鳴き声に反応した母ねこ

 前置きが大変長くなってしまいましたが、すごい話はここからです。そのねこたちが、もらわれていってから、2、3年たった頃です。トラちゃんが外に出たまま帰ってこないとの連絡を、その方から受けました。お宅のまわりを捜索していると、道路のアスファルトに、トラちゃんの毛と思われる茶色の毛が張りついていました。おそらく、車に轢かれた時のものです。わたしたちは、もう死んだものと思い、トラちゃんの死体を探して回り、役所の担当部署にも死体の記録がないかどうか、問いあわせたりもしました。しかし、死体はどこにも見つかりませんでした。

 10日近くたったある日、その方はふと思いついて、事故のあったと思われる付近を、娘ねこである「ツル」と「カメ」の2匹をかごに入れて連れていき、一緒に探したそうです。すると、その娘ねこの鳴き声を聞いて、近くの家屋の軒下に隠れていたトラちゃんが、前足で這って出てきたそうです。

 道路を横断中に、車に腰を轢かれて、そのまま這って近くの家の軒下まで逃げて、そこで隠れていたようです。助け出されたトラちゃんは、骨盤を骨折していましたが、動物病院の獣医師の適切な処置によって、ほぼ完治し、12歳まで生きました。それにしても、大けがを負いながら、しかも飲まず食わずで10日間もよく生き延びていたものです。ねこの生命力のすごさにびっくりするのと同時に、娘ねこの鳴き声に反応して這い出てきたことも、すごい話だと思います。

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