「今シーズンは完全復活を目指して頑張ります」
9月1日、今季のグランプリシリーズ2戦(スケートカナダ、フィンランド大会)の派遣に伴い強化選手に復帰した紀平梨花は、日本スケート連盟のホームページで決意を述べている。
昨年12月、北京五輪代表最終選考会となる全日本選手権が行われたさいたまスーパーアリーナのリンクに、紀平の姿はなかった。7月に疲労骨折した右足首の回復が遅れていた紀平は昨季前半の試合に出ていなかったが、全日本欠場はすなわち北京五輪出場断念を意味する。最後まで全日本出場を目指し拠点のカナダから帰国していたという紀平だが、選手人生を見通した熟慮の末、最終的には欠場の決断を下した。
紀平は2019・20年の全日本女王であり、怪我がなければ3連覇をかけて臨むはずの全日本だった。北京五輪でロシア女子に対抗できる数少ないスケーターと目されていた紀平だが、怪我により代表選考の場にすら立てなかった。その心情は、察するに余りある。
ジュニア時代からの武器であるトリプルアクセルに加え、2020年全日本では4回転サルコウも成功させている紀平は、ストイックにスケートと向き合ってきた。
2019年11月、札幌で行われたNHK杯でアリョーナ・コストルナヤ(ロシア)に次ぐ2位に入りグランプリファイナル出場を決めた紀平は、一夜明け会見で切実な思いを吐露している。当時左足首を痛めていた紀平は、構成に入れれば高得点が期待できる3回転ルッツを回避していた。
「本当は休めば治るんですけど、しっかり練習しないと……今はやっぱりどの試合でもノーミスを狙うためには、一日でも休むと危ない状況なので、少しは長引かせてしまって“ルッツなし”でも、毎日練習する方がいいかなと」
2019-20シーズンは、シニアデビューしたロシアの“三人娘”(コストルナヤ、アンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トゥルソワ)が高難度ジャンプを武器にグランプリシリーズを席捲し、紀平はファイナルで唯一の日本人選手としてロシア勢と対峙することになる。ロシア勢が表彰台を独占したファイナルで紀平は4位に入り、メダルは逃したもののロシア勢を追う一番手として存在感を示した。このファイナルで2位のシェルバコワは北京五輪で金メダル、3位のトゥルソワは銀メダルを獲得しており、紀平が極めて高いレベルで競っていたこと、そして緩むことなく鍛錬していたことが改めて思われる。