そのあと、1973年11月5日です。猪木さんは当時、大人気女優の倍賞美津子さんと結婚していました。その日、猪木さんは倍賞さんと新宿伊勢丹で買い物をしていると、来日中のタイガー・ジェット・シンも「たまたま」新宿にいたんですね。
なんて「神様のイタズラ」でしょう。「たまたま」鉢合わせした二組。すると、タイガー・ジェット・シンは、猪木さんに襲い掛かり、ガードレールやタクシーのボンネットに頭をぶつけたりして、猪木さんを負傷させました。ちなみにタイガー・ジェット・シンも猪木さんに殴られて負傷したそうです。
大人が殴り合ってるわけです。大騒ぎになり、一般の目撃者が警察に通報し、パトカー数台が駆けつける大騒ぎ。警察が来た頃にはタイガー・ジェット・シンは逃走していたそうです。
猪木さんたちは「逃げずに」その場に残っていた。
大ニュースになるわけです。猪木さんだけでなく、女優で奥様の倍賞さんもいたわけですから。
このあとがポイントです。普通なら被害届を出すわけですが、猪木さんは出さなかったんです。そうなると警察だって怪しむはずです。
警察「街中で襲われたんだから被害届出しなさいよ」
猪木「いえ出しません」
警察「なんでだよ! 相当やられたんだろ?」
猪木「出さないです」
警察「あれ? これってもしかして……!?」
なんて会話が出てきたかわかりませんが、警察は疑うわけです。新日側は当然、これも否定。じゃあなぜ被害届を出さないのかっていうと、新日側の言い分としては、「シンは契約選手でシリーズ中のため傷害罪で告発することはできない」となったのでしょう。
これによって、タイガー・ジェット・シンはプロレスファンだけでなく、全国民から「とんでもなくやべーやつがいる」となるわけですよね。
そして、その事件の11日後。「ベストなタイミング」で猪木さんとタイガー・ジェット・シンはリングの上で一騎打ちをすることになるわけです。国民は大注目。大流血戦に発展したこの試合は、当然ながら視聴率がアップしたと。