『忘れる脳力』著者の岩立康男教授
『忘れる脳力』著者の岩立康男教授
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 「忘れることは、悪いこと」。世間に浸透するそんな常識に一石を投じる本を上梓したのは、千葉大学脳神経外科学教授の岩立康男氏だ。岩立氏は著書『忘れる脳力』(朝日新書)のなかで、新たな記憶を獲得するために「不必要な記憶をきちんと忘れること」の重要性を伝えている。その真意とは、何なのか。『忘れる脳力』の冒頭を抜粋して解説する。

【図】最も忘れにくい記憶とは? 記憶の種類一覧はこちら

 「忘れる」ということは悪いことなのか? 多くの人が、「忘れるのは悪いことで、できるだけ忘れないように努力しよう」という前提で話をしているように見える。しかし、最新の脳科学が明らかにしたのは、「脳は記憶を積極的に消すための機能を持っており、記憶を消すために多くのエネルギーを使っている」という事実である。

 それはなぜか? 忘れなければ新しい記憶を得ることができず、記憶をもとに思考を深めていくこともできないからだ。

 また逆に、必要のない記憶を忘れることができなければ、あなたがあなたであるための最も重要な記憶、自分の生い立ちや家族のこと、自分の仕事や友人のこと、これらを忘れてしまう危険性が高まってしまう。忘れることは、実は脳の持っている重要な機能の一つだったのである。

 忘れることは悪いことではない。むしろ健全な脳の働きのために、積極的に忘れる必要がある。そのことを皆さんに知ってもらい、適切な「記憶の取り扱い」を実践してもらうことが、『忘れる脳力』を出版した目的である。

 仕事において、昨日の会議の内容や、さっき見た新聞記事で取り上げられていた世界経済の動向など、全部覚えていられたら便利であろう。そして、今日一日のスケジュールも全て頭に入っていて、仕事をてきぱきこなしていく。そんな人がいたら、一見「できる」ビジネスマンのように思える。しかし、これらは手帳や会議の議事録を見直したり、ネットで調べたりすればすぐに獲得できる情報であり、基本的に忘れてもいい記憶なのである。

 むしろこの人は、不要な記憶を保持することと引き換えに、最も重要な「よく考えること」ができていないおそれがある。実は「よく考える頭のいい人」ほど不要な記憶を忘れやすく、その分新たな記憶をどんどん取り込める可能性があるのだ。

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「覚える」ためには「忘れる」ことが最重要