遠泳本番、自分を信じてゴールを目指して懸命に泳ぐ(長谷川フォト・プロ)

「当時を振り返ると、仲間と練習を頑張ったということが強く印象に残っています」(今さん)

 泳ぎが得意で、全国大会に出場した経験もあったが、フォームの乱れをコーチから指摘され、仲間と励まし合って練習した。検定にむけて班の仲間に一生懸命泳ぎを教えた結果、目標としていた級にみんなが合格、そのときの笑顔は今もよく覚えている。遠泳当日も、辛そうな友達がいれば応援して、「絶対にみんなで完泳しよう」という気持ちを持って臨んだという。

 今さんは、「遠泳で得たのは、諦めない気持ちを持つこと、仲間意識をもって行動すること。大人になった今、自分の糧になっていると感じています」と話す。かつての自分と重ねながら、「自信をもって泳いできてね」と、児童たちを遠泳本番へ送り出している。

完泳できた喜びに涙をぬぐう姿も(長谷川フォト・プロ)

 今年の6年生のモチベーションは、一昨年、昨年の先輩たちが泳ぎたくてもできなかった現実を目の当たりにしていることもあり、一層高かったという。遠泳当日、緊張のスタートから海の上で泳ぎに集中していた児童たちは、ゴールで様々な表情を見せた。込み上げる熱い気持ちをグッとこらえている姿、目を合わせて互いに健闘をたたえる様子、晴れやかな顔、安堵感……。「泳いでみると意外と余裕だった」と、頼もしい声も多いのだ。

 6年生クラスの担任でもある齋藤先生は、児童たちの後方について泳いだ。「普段の子どもたちの姿をよく知っているからこそ、懸命な泳ぎに胸が熱くなりました。仲間と泳いでいることが何よりのパワーになるのでしょう。それぞれの頑張りはもちろんのこと、仲間とのつながりや先輩方の支え、全てのことが富浦遠泳ならではの経験になるはずです」

 そんな齋藤先生の思いは、遠泳から時を重ねた今さんの実感と重なる。「大人になった今、全員で一つの目標を掲げ、全員で挑戦するということはなかなかありません。あのときみんなで完泳したことは、私の人生のなかで特別な経験になっています」

 6年間かけてみんなで挑んだ夏は、次の山、そして将来の山へとつながっていくのだろう。

(AERA dot.編集部 市川綾子)

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