■中国がロシアみたいな目に遭いたいと思うのか

加藤:今の政権の正体がわからないですね。あれよあれよと言う間に戦争ができる国になってしまいそうで。

佐藤:岸田政権になってから、どんどん変わりました。安倍晋三政権のほうが勇ましいように見えましたが、実際にはブレーキがかかっていました。

 岸田政権を見ていると、深海魚のようです。上のほうの世界からは見えない深いところで、自分たちの論理だけで動いている。それで支持率も20、30%台で大丈夫だとなっている。上まで浮いてきてくれれば、ケンカの仕方もいろいろあるんですけどね。

加藤:難しいですね。

佐藤:戦争をやめさせれば、経済の問題も軍事の問題も回転していくんです。アメリカは日本を完全に破壊するだけの核兵器を持っていますが、アメリカが日本に核兵器を落とすと考えている人はいません。なぜなら、アメリカにその意思がないから。すなわち日本を攻撃する必要がないという関係を、政治的・外交的に作ればいいんです。それこそ昨年の2月以前はロシアが日本を攻撃してくるなんて、誰も思っていなかった。中国だって特に行動が変わっているわけではないのに、日本人のイメージとしては中国が攻めてくるのではと思っている人が増えました。

加藤:根拠がないですよね。

佐藤:台湾海峡有事になると言いますが、ロシアがこんな戦争を始めて、世界中から非難されていて制裁を受けている。中国がそれを見て、自分たちも制裁戦争を始めてロシアみたいな目に遭いたいと思うでしょうか。経済成長を続けている中国は、あと20年経てばアメリカの水準になる可能性があります。台湾の中でも国民党の人たちには経済成長した中国と一緒にやりたいと思っている人もいるわけです。柿が熟して落ちてくるように、あと20年ゆっくり待ったほうがいい。この二つのシナリオぐらい、誰でも思いつくじゃないですか。なぜ、中国が数年以内に戦争に踏み込むって決め込むのか。

加藤:私は、佐藤さんのような緻密(ちみつ)なデータで動いているわけではないけれども、私たちのできることはなにかと考えた時に、人として自分の気持ちを率直にいつでも言えるという道を残しておくことだと思うんです。

 そういう意味でも正しい歴史を伝えなければと思うんです。私は旧満州で生まれ、46年に引き揚げてきました。終戦というものに対して、日本はどう対応してきたのか。大陸に残された私たちが引き揚げられたのは日本の力ではありません。むしろ、中国の人たちが停戦をして引き揚げ協定に協力して、その間それこそ炊き出しなども中国人がしてくれたわけです。そういう歴史を伝えなければと思うんです。

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