写真はイメージ (c)GettyImages
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 進化を続ける自動翻訳の肝は「ニューラル翻訳」だ。神経細胞(ニューロン)が相互接続する脳をコンピューターで模した「ニューラルネット」を活用した自動翻訳のことで 、その訳文は人間の自然な訳に近いものになる。こうした最新の自動翻訳にも、人間による品質評価が欠かせないという。自動翻訳研究の第一人者である隅田英一郎氏の『AI翻訳革命』(朝日新聞出版)から一部抜粋して紹介する。

【例文】「between」と「among」、自動翻訳はこう訳した

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正しい品質評価が不可欠

 今日、自動翻訳が巷にあふれている。さて、それらの翻訳品質はどうなのだろうか? 「こんな難しい文が翻訳できるのか」と感動する人もいれば、「このシステムの誤訳はタチが悪いね」と酷評する人もいる。利用者が自動翻訳システムに、何を翻訳させたいのか、どのように翻訳することを期待しているかで、評価は揺れる。評価する人の好き嫌い等の趣味的な観点でバイアスがかかることもある。

 また、利用者の語学力にも関係して評価は変わる。語学力が高ければ通常辛くなり、そうでなければ甘くなる。また、日本人は(受験勉強の弊害なのか)減点主義になりがちだったり、自分の価値を高く見せようとして批判が暴走したりもする。残念ながら良いところに注目して上手く活用しよう、あるいは、悪いところを指摘しつつも改善に役立てようという評価をする人は少ないように思う。

 一方、万事において評価は避けて通れない。評価は進歩を促すポジティブな道具である。例えば、ダイエットを成功させるには、「おなかが引き締まった気がする」とか「見た目がほっそりしたかも」ではなくて、第三者的に測定することが不可欠。あるダイエット手法を試したときの変化を踏まえて、そのまま続けるか調整するかやめるかを判断しなくてはならない。体重や体脂肪率が目標に近づくとモチベーションも大いに上がる。

 自動翻訳システムの評価には、翻訳品質以外に、処理速度、使い勝手など多様な観点からの評価が必要になる。ところが、研究では全ての観点を同時に改良することはせず、主に翻訳品質を上げることが普通で、処理速度を犠牲にして翻訳品質を優先する手法も頻繁に論文化される。その手法は人が寝ている間にゆっくりと精度良く翻訳すればよい場合にはぴったりだが、即時性が大切な場合は翻訳結果を得るのに時間がかかり過ぎて使えないことになる。

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