
ここ20年ほどで鎮痛薬の種類が格段に増えただけでなく、口から飲めなくても使える注射薬や貼り薬などさまざまな剤形が登場。状態に合わせた細やかな対応ができるようになった。
「基本的な薬物療法は緩和の専門医以外の医師も処方が可能で、病院でも在宅でも受けることができます。8~9割の人はこの方法である程度まで痛みが改善します」(同)
薬だけで取りづらい痛みには、痛みの原因になっている神経を麻痺させる「神経ブロック」や「放射線治療」(後述)といった専門的な治療のほか、体位の工夫、マッサージや鍼灸、痛みを増強している心理的な不安の解消なども組み合わせる。井上医師はこう話す。
「痛み治療の最初の目標は安静時の痛みをやわらげて、夜、眠れるようにすること。痛みをゼロにすることはできなくても、そこまでは達成できることがほとんどです」
また痛み以外の症状の治療法も確立されており、多くは解決できる。骨転移の進行を予防する薬や、悪液質(がんに栄養を奪われた状態)を改善する薬なども出てきている。
■痛みや出血に放射線が奏効
一方、放射線治療は、局所の症状を緩和する上で高い効果を期待できる。
代表的なものが、骨転移による痛みの治療だ。痛みを発している転移部分を狙って照射してがんの勢いを抑えたり、がんを死滅させることで痛みをやわらげる。
一般に緩和照射では、がんを治すための根治照射よりも線量を減らす。症状緩和には十分な線量を確保しつつ、できるだけ副作用が出ないようにすることが重要だ。京都大学病院放射線治療科教授の溝脇尚志医師は言う。
「痛みの原因となる骨転移の部位が明らかな場合には、とても有用な治療です。普通に生活できるようになったり、医療用麻薬が不要になることも少なくありません」
脳転移では頭痛や麻痺などの症状緩和だけでなく、延命効果も期待できる。かつては脳全体に放射線をかける全脳照射をしていたが、近年は技術の進歩で、腫瘍をピンポイントに照射できる「定位照射」がおこなわれるようになった。最新の装置を使えば、10カ所ほどの転移巣があってもすべてを一撃で照射でき、10分以内で治療が終了する。