がんが遠隔転移している場合、がんにともなう痛みなど、さまざまな症状をやわらげる緩和ケアの役割は、より重要になる。痛みに対する薬物療法や放射線による緩和照射について、専門医を取材した。
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がんが遠隔転移をすると根治は難しく、「良い状態で長生きすること」が目標になる。しかし、がんの進行にともなって痛みや呼吸苦、倦怠感などさまざまな症状が表れ、良い状態が維持できなくなることも多い。
そこで大きな力になるのが、つらい症状をやわらげる「緩和ケア」だ。適切な緩和ケアを受けることで、「進行がんの患者は苦しむ」という状況が変わりつつある。東北大学病院緩和医療科教授の井上彰医師はこう話す。
「抗がん剤治療も症状緩和の効果はありますが、薬の耐性でいずれ効かなくなります。さらに副作用でからだが弱ってしまうなどマイナスのほうが大きくなったときは中止せざるを得ません。一方、緩和ケアは害になることはなく、ずっと続けられる治療です。進行肺がんの患者さんを対象におこなった研究で、緩和ケアを受けたグループは受けなかったグループに比べてQOL(生活の質)が向上しただけでなく、生存期間が延長したことも報告されています」
■進行がん患者の約7割に痛み
緩和ケアを要する代表的な症状が、「痛み」だ。がんが周囲の組織に広がると、神経が傷ついたり圧迫されたりして痛みが生じることが多く、進行がん患者の約7割は痛みがあるといわれている。
治療は、鎮痛薬による薬物療法が基本。弱い痛みに使う日常的な解熱鎮痛薬から、かなり強い痛みを抑えるためのモルヒネやオキシコドンといった医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬)まで、痛みに合った薬を使い分ける。抗うつ薬などの鎮痛補助薬や、急に強い痛みが出たときのための頓用薬も、必要に応じて併用する。
「痛みは我慢せずに伝えてください。痛みがかなり強くなってから薬を使い始めても、効きづらくなってしまいます。大事なのは、痛みが出始めた段階から必要な薬をしっかり使っていくこと。最初から強い痛みがある場合は、いきなり医療用麻薬を使うこともあります」(井上医師)