SBTRKT 驚きのフジロックからの2作目、仮面の下に秘められた底なしの才能
SBTRKT 驚きのフジロックからの2作目、仮面の下に秘められた底なしの才能

 異形の仮面を被ったロンドン出身のプロデューサー=サブトラクト(SBTRKT)ことアーロン・ジェロームが、2作目となるフル・アルバム『Wonder Where We Land』をリリースした。セルフ・タイトルのデビュー作から、3年ぶりのアルバムだ。

 まず思い返したいのは、今夏フジ・ロックで行われたサブトラクトのステージ。それは極めて意外な内容であった。サブトラクトが日本で繰り広げて来たステージと言えば、凶暴と言っていいほどにアップリフティングなダブステップのトラックを、しばしば彼自身がプレイする生ドラムで後押しするというもので、今回もそのダンサブルな展開を期待するファンが数多く詰めかけていたはずなのだ。ところが、披露されるのは盟友ヴォーカリスト=サンファがソウルフルに歌い上げ、ドラムスも技巧派のサポート・メンバーに委ねる楽曲ばかり。ダンス性というよりもメロディ・オリエンテッドな、サブトラクトの作曲センスを前面に押し出したパフォーマンスになっていた。

 つまり、その後リリースされることになる新作『Wonder Where We Land』の収録曲を大々的にフィーチャーしたライヴだったわけだが、そのことを知る由もないオーディエンス(もちろん筆者も)は狐につままれたような気持ちと言うか、ど真ん中に投げ込まれるはずの豪速球を全力で打ち返そうと意気込んでいたらはぐらかされた、という調子で、残念ながらステージ上とフロアのムードに大きなズレが生じてしまった。慌てて「聴き入る」モードにチャンネルを切り替えてみると、そこには丹念に編み上げられた、秀逸な楽曲群が奏でられていた。プロデューサーでありマルチ奏者でもあるサブトラクトは、まるでカメレオンのような存在であり、熱心なファンの想像さえ凌ぐレヴェルで、その多彩な才能を開陳してゆくアーティストなのだ。

 ということを前提に向き合う『Wonder Where We Land』。もともと音源作品は丁寧に作り込むサブトラクトだが、ヴォーカルものとしてのポスト・ダブステップを深化/更新した佳曲揃いである。これほど、どれもこれもが前衛的で、かつキャッチーに響く楽曲群というのはなかなかお目にかかれない。リード曲でもあった「New Drop.NewYork」にはヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ、「Look Away」にはチェアリフトのキャロラインといったNYのインディ・ポッパーを配し、前作に引き続き登場のジェシー・ウェアやお馴染みサンファも活躍。エイサップ・モブの一員であるファーグや、序盤の「Higher」で招かれ大きなインパクトを残すアトランタの10代ラッパー=ラウリーなど、ヴォーカル起用術も冴え渡っている。

 アルバムに先行して、5~6月には3作のEPシリーズ『Transitions』も発表していたサブトラクト。知ろうとすればするほど、仮面の下に秘められた底なしの才能には驚かされるばかりだ。

Text:小池宏和

◎リリース情報
『ワンダー・ウェア・ウィー・ランド』
2014/09/24 RELEASE
BGJ-10214 2,371円(tax in.)