『キッズ・アー・オールライト』著者の丸山正樹さん(左)と『「ヤングケアラー」とは誰か』(朝日選書)著者の村上靖彦さん(丸山さん撮影:写真映像部・高橋奈緒、村上さん写真:本人提供)
『キッズ・アー・オールライト』著者の丸山正樹さん(左)と『「ヤングケアラー」とは誰か』(朝日選書)著者の村上靖彦さん(丸山さん撮影:写真映像部・高橋奈緒、村上さん写真:本人提供)
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 社会派エンタメ小説『キッズ・アー・オールライト』を上梓した丸山正樹さんと、『「ヤングケアラー」とは誰か』の村上靖彦さん。異色の初対談では、小説とは?研究とは?と考えを巡らせた。

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村上:ヤングケアラーを取り上げた『キッズ・アー・オールライト』もそうですが、丸山さんは障害や医療、福祉といった社会問題をテーマに小説を書かれていますね。きっかけは何だったのですか?

丸山:脚本の仕事を経て小説を書き始めたのですが、コンクールに出しても一向に通らない。それで、自分にしか書けないものは何か、と考えました。浮かんだのは、身近な障害者の存在でした。妻には頸髄損傷という重い障害があって、私自身も子どもの時から吃音という言語障害があります。母親も双極性障害を何十年も抱えていました。そういった自分の経験や環境をうまく活かせないか、と考えたのです。

村上:デビュー作の『デフ・ヴォイス』はCODA(ろう者の親から生まれた聴こえる子ども)が主人公でしたね。ろう者の困難や心のひだが丁寧に描かれていました。

丸山:実は一作目は、文献や映像だけを基に書いたのです。そこからいろんな当事者と知り合って、直接に見聞きする中で次々と知らないことが出てきました。それを基に新しい作品を書く。憤りから出発することが多いのですが、自分に書けることは何かとその都度考えて、書いた結果が小説になっているのです。逆に村上さんは、どうして子どもたちの支援の現場やフィールドワークに行き着いたのですか? ご専門は現象学とお聞きしましたが。

村上:現象学は学問の視点の取り方を変えます。客観的な視点ではなく、一人称の視点から経験と世界がどのように形作られているのかを描きます。一人一人経験も実践も異なる形を持っています。個別の視点から見た経験の形を背景の文脈も含めて描き出すことをめざしています。僕の場合、対人関係の機微に関心があったことがきっかけで、医療現場に通うようになりました。一人一人の視点から描くことでしか見えないケアのあり方があるはずだ。そんな思いから、現在の方法論を取っています。

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人の語りには、本人が考えているストーリー以上のことが必ず語られている