難病のALS患者に対する嘱託殺人の罪で起訴された元医師の山本直樹被告(45)が、父親への殺人罪に問われている裁判。被告人質問では、知人の医師や母親=同罪で起訴=と立てた父親の殺害計画や、知人の医師の「安楽死」に対する屈折した“執念”が語られた。
「類を見ない犯罪。計画立案でも中心的な役割を果たし、強い非難に値する」
1月20日の論告求刑で、検察側はそう指摘した。
起訴状によると山本被告は、母親の淳子被告(78)と、厚生労働省の元技官で医師の大久保愉一(よしかず)被告(44)と共謀し、2011年3月5日、東京都内のマンションの一室などで、父親の靖さん(当時77)を殺害したとされる。
検察側は、精神疾患を抱える靖さんを「厄介払いするため殺害を計画した」などとして、3人が共謀して犯行に及んだと主張していた。
弁護側は一貫して、「大久保被告の単独犯」「間違いなく、山本被告が大久保被告と共謀したとはいえない」などとして、無罪を訴えていた。
1月16、17日の2日間にわたって開かれた被告人質問。山本被告は、靖さんが精神疾患で入退院を繰り返し、淳子被告ともに
「さんざん、大変な目に遭ってきた。高級店で無銭飲食、窃盗、何度も警察沙汰になった。暴れると手が付けられない。私も母もずっと苦しめられてきた」
などと心境を吐露。靖さんの殺害計画が動きだし、靖さんが殺害されるまでの経緯などについて語り出した。
被告の証言や検察の主張で犯行当日の様子を再現する。
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山本被告は、長野県の専門病院に長期入院中だった靖さんの病状について、あるとき大久保被告に打ち明けた。
すると、
「合法的に人為的に寿命を迎えさせることができる」
と“提案”された。
当時、福島県で研修医として勤務していた山本被告は、とっさにその意味を安楽死かそれに類するものだと察して断った。
しかし大久保被告は
「医療費ばかりかかる高齢者、医師として手をこまねいていて胸が痛まないか。医師だろ、簡単なことだろ」
と勧めてきたという。