日本を離れて間もない頃は、外出時にふと「あれ、マスクを着け忘れたかも……」と不安になりながら自分の顔に触れては「もう(マスクは)いらないんだ」と自問自答することが頻繁にありました。しかし、今ではそんなやりとりを自分自身の心の中ですることもありません。日常生活を送る中で、「コロナ」に関する話題が出ることも目にすることもほとんどないからです。

 街を歩いている時や店に入る際に「マスクの着用をお願いできますか?」と言われてしまうこともなければ、「消毒のご協力をお願いします」と入店前に止められてしまうこともありません。「マスクをしないといけない」と周囲の視線を意識することもなくなりました。こちらではハグもすれば、人との距離が近くても遠くてもマスクを着用することなく会話をしています。もちろん、ワクチン接種の有無を確認されることもありません。

 ジムやスーパーマーケットでよく見かけるのは、消毒液です。消毒することを強要されたり勧められることは決してありませんが、自主的に使用前や使用後に筋トレマシンを消毒したり、入店時や会計の際に手を消毒する人を頻繁に見かけます。公園では、子どもたちが遊び終わったときなどでしょうか。お母さんが小さいお子さんに消毒するように声をかけている姿もよく目にします。私も今ではマスクを持ち歩くことはなくなりましたが、消毒液や消毒シートをカバンの中に入れていつでも使えるように心がけるようになりました。普段よく訪れるところでは設置されていることが多いため、必ずしも持ち歩く必要はなさそうですが、意識して持ち歩くように自然となっていました。

 これまでの滞在期間中、念のためにマスクを持参したことが一度だけあります。昨年12月にミュージカルを観に行った時です。事前にメールで送られてきた案内で「公演中はマスクを着用されることを強くお勧めします。ワクチン接種の証明は必要ありません」と書かれていたからです。残念ながら、出演者の体調不良により鑑賞予定だった日と翌日の上演は見合わせ。少々残念ではありましたが、「次の機会にミュージカルを観に行った際にはマスク着用を勧める案内が送られてこないといいな」なんて思いながら帰宅したのでした。

 日本では、コロナの扱いを「5類」へ引き下げるほか、マスク着用の目安についての緩和検討を指示する方針であることが連日報じられています。日本に帰国するころには、「マスク着用をしないといけない」という雰囲気が続いていないことを願っています。

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?