■お酒を飲んで顔が赤くなる人は要注意
頭頸部がんの治療上の留意点にについて、杉本医師は次のように話します。
「喉頭、下咽頭、中咽頭のがんでは、進行した場合、喉頭を切除しなければならず、声を失うことがあります。また、頭頸部はその場所から、大きく切除すると外見や機能を損なうため、がんの根治だけでなく、生活の質(QOL)の維持や再建も考えて治療を決める必要があります」
頭頸部がんを予防する方法として、両医師は「大きなリスクである、アルコールと喫煙をやめること」と口をそろえます。
「とくにアルコールは、飲めるけれど顔が赤くなる『フラッシャー』と呼ばれるタイプが最も危険。アルコールの代謝によってできる『アセトアルデヒド』という発がん物質を分解する酵素を十分に持っていないタイプで、日本人などアジア人では半分くらいがこのタイプです」(渡邉医師)
もう一つ重要なのは、早期発見に努めること。ヘビースモーカーやお酒好きな人は、定期的に頭頸部がんの検査を受けることをおすすめします。
「CT検査などよりも、直接、患部を見ることのできる内視鏡検査が有効です」(渡邉医師)
■首のリンパ節の腫れがあるなら医療機関へ
中咽頭がんのうち、HPV陽性がんの予防については、検出されるHPVの型が子宮頸がんの高リスクとされるHPV型と同じであることから、子宮頸がんワクチンによる予防効果が期待できるのではないかといわれ、研究されています。
なお、日本では2020年12月に厚生労働省がHPVワクチンである「HPV4価ワクチン(ガーダシル)」の適応に男性を追加する方針を発表しました。子宮頸がんの感染ルートを断つ目的から、若い男性に対し、無料接種すべきかどうかの議論もはじまっています。
最後に、頭頸部がんで最も転移しやすいのは所属リンパ節である頸部のリンパ節なので、この部分が腫れていたら、良性か悪性かの判断をしてもらうために、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。頭頸部がんは、耳鼻咽喉科、頭頸部外科どちらでも診療が可能です。がんと判明した場合、放射線治療、外科手術、内視鏡による口の中からの手術などがあり、進行度や患者のからだに応じて、治療を選択できるようになっています。
(文・狩生聖子)
【取材した医師】
都立駒込病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長 杉本太郎 医師
恵佑会札幌病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長 渡邉昭仁 医師
「頭頸部がん」についての詳しい治療法や医療機関の選び方、治療件数の多い医療機関のデータについては、2023年2月27日発売の週刊朝日ムック『手術数でわかる いい病院2023』をご覧ください。