何が愉快って、全部「ご近所」というだけの縁で結ばれた世界で行われたことである。家族でも同僚でもなく何の利害関係もなく、なのに無意味に気にし合う我ら。私は会社を辞めるまでこんな人間関係があることを知らなかった。役に立つ人間、少しでも秀でたところのある人間でなければ誰にも相手にされないと信じ込んでいた。でも収入がどうなろうが仕事がドン減りになろうが世間に冷笑されようが、つまりは私が何者であれ、この地でよろよろ生きている限り、当たり前に笑い合ってくれる仲間はちゃんといるのである。
なるほどこれを「ご近所づきあい」というのだな。これは現代の忘れられた、しかし実は誰だって掘り起こすことのできる絶大な資源である。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2023年1月2-9日合併号