作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、「男女平等パンチ」の不気味さについて。
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SNSをそこまで熱心に見てないので、「そんな言葉がネット上には今あるのか……」と時々驚くようなことがある。たいていは気味の悪い言葉だ。「わからせ」は、このコラムでも書いたことがあるが、最近知ったのは「男女平等パンチ」と「ひととき融資」。どちらも数年前から使われてきた言葉だというけれど、その手の話を不安な顔をしてする女友だちが増えている。
「男女平等パンチ」は炎上したので知っている人は多いだろう。渋谷の路上で女性が男性の顔に平手打ちをした瞬間、男が全力で女性の顔を殴りつけ女性が宙を飛ぶように跳ね、地面に叩きつけられ失神してしまった動画が、先月SNS上で流れた。男はさらに倒れた女性の胸ぐらをつかまえ上半身を起き上がらせるが、すぐにその手を離し、ぐにゃりとした女性は地面に頭を強く打ちつけられる。たとえ相手が女であっても非があれば手加減しないのが本当の男女平等だ、ということで「男女平等パンチ」というらしい。この動画が撮られた経緯はわからないが(動画を撮らずに助けろよ、と思う)、男性に殴られたことのある女性には特にトラウマになるような映像なので見ることはおすすめしない。
久しぶりに人生で2度、男に殴られたことを思い出した。
20代の時、女性トイレに入ってきた男に「ここ女性トイレだよ!?」と言った瞬間、間髪を入れずに顔をげんこつで殴られ、数メートル先まで吹っ飛ばされたことがある。そのままトイレの便器に頭をゴンとぶつけ、ぐにゃりとなった。あまりのことに驚き、私の言い方がまずかったのか、本当は女性なのに男と決めつけたからなのか?とかいろいろ考えた。とっさに自分にも落ち度があるかもと考えてしまうのは、「自分の気持ちよりもまず相手のお気持ち」とトレーニングされてきた、この国の女ジェンダーゆえだろう。