◆日本の医療を世界に。羽田に拠点を創設

 周囲の「よく受け入れてくれた」という声をよそに、土井医師は次の展開を考えていたという。

「受け入れた128人については、毎日PCR用のサンプルを採っていました。彼はその時点で新型コロナウイルスが変異することを予想し、受け入れた全員の観察だけでなく、データをまとめて臨床研究として世界に発表すべきと、研究デザインまで考えていました」(湯澤医師)

 世界を相手にするというのは、つまりそういうことであり、そうした視点が今後さらに必要になってくるという。

「研究が幅広くできるような環境を、医学部として整えることが喫緊の課題。医療情報を安全に使うためのセキュリティー対策の構築や、海外の医学部との連携なども必要です」(同)

 その一環として、同大では日本の玄関口でもある羽田空港エリアに次世代医療・研究拠点となる「藤田医科大学東京 先端医療研究センター」を2023年に開設する予定だ。精密・機能検診や、食事療法・リハビリテーションにより“活動長寿”を実現するなど、日本の高度な医療を世界に発信していく場を作る。

手術支援ロボット「ダビンチ」のトレーニングセンター(藤田医科大提供)
手術支援ロボット「ダビンチ」のトレーニングセンター(藤田医科大提供)

「光ファイバーの専用回線で藤田医科大病院と羽田をつなぎ、リアルタイムでロボット支援手術の遠隔トレーニングを受けられるようにもします」(同)

 近い将来、創生医療(再生能力が高い臓器も再生医療の対象とし、新しい臓器をつくることも含まれる)が治療としても受け入れられる。

 例えばそんな新しい領域にも気後れせず、入っていける医療人を作るのが大学の役目。では大学として学生にどんなことを期待するのだろうか。前出の東京医科歯科大前学長・吉澤靖之医師(前編参照)と、湯澤医師に聞くと、共通するのは“世界”だ。吉澤医師が言う。

「若い人たちには視野を広く持ってほしい。私も海外留学をしたことで変わった。大事なのは、知的好奇心をもって世界を、外で何が起きているかを知ること。そこで自己アイデンティティーを確立していくことです。失敗を恐れずにチャレンジすれば、人間は必ず成長します」

 湯澤医師も、「内向的にならず、世界に飛び出してほしい」と檄を飛ばす。もちろん、そこにあるのは“世界で競う”ことだけではない。

「世界を見渡せばハイレベルな研究や医療をしているところはたくさんある。そうしたところで活躍する可能性がある人と友人になり、一緒に研鑽を重ねていく。それがいずれ自分のキャリアとなっていきます」(湯澤医師)

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