『富江』『うずまき』の作者として知られ、いまや日本が世界に誇るホラー漫画家となった伊藤潤二氏。「漫画のアカデミー賞」とも呼ばれる米アイズナー賞を4度も受賞し、1月からNetflixで配信されている「伊藤潤二『マニアック』」も話題だ。そんな伊藤氏が、画業35年にしてはじめて自身のルーツや作品の裏話、さらには奇想天外で唯一無二な発想法などについて明かした『不気味の穴――恐怖が生まれ出るところ』を書きあげた。ここでは、その一部を抜粋・再編集してお届けする。
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中学生のころの私が、夢中になっていたのが「ショートショート」の文学作品である。
ショートショートは、400字詰め原稿用紙5~10 枚程度でまとめられたごく短い小説のことだ。私はクラスメイトから、当時秋元書房から出ていた『SFショートショート傑作集』を教えてもらい、初めてそれらの作品に触れた。
そして面食らった。
これは単なる短い小説などではないぞ…… !!
ショートショートの何が画期的なのか。
例えば、アメリカで活躍した文芸評論家のロバート・オバーファースト氏は、ショートショートの三要素として、次の3つを挙げている。
- 新鮮なアイデア
- 完全なプロット
- 意外な結末
ショートショートの作品には、まさにこれらの三要素が、わずか数千字のテキストの中に、箱庭のごとく合理的かつ無駄なく構築されていた。
私はそのあまりの面白さ、爽快さに、瞬く間に夢中になった。とくに結末における「どんでん返し」という手法を初めて知ったときは、興奮で手が震えたものである。
それから私は、一心不乱にショートショートを書くようになる。
折しも、私がショートショートを読み始めた直後に、講談社が「星新一ショートショートコンテスト」なる文学賞を立ち上げた。あのSFの大家・星新一の名を冠したショートショートの賞とあらば、挑戦しない手はない。
私は燃えた。