オープンAIのアルトマン氏は、冒頭に紹介した2月18日の連続ツイートの中で、AIのより大きな課題についても述べている。
アルトマン氏は、AIが引き起こす変化のスピードは極めて速く、社会が適応するには時間がかかるという。さらに、そのリスクに向き合うために規制が不可欠だと指摘する。
「現在のAIツールはそれほど怖いものではないが、潜在的な怖いAIの登場は、そう遠くない未来かもしない」
AIの急速な進化のリスクを懸念するのは、アルトマン氏だけではない。
テスラとスペースX、そしてツイッターのCEO、イーロン・マスク氏もその一人だ。2月15日、ドバイで開かれていた世界政府サミットで、マスク氏はこう述べたという。
「文明の未来に対する最大のリスクの一つはAIだ」
マスク氏はAIが進化の果てに、制御不能となるリスクを繰り返し指摘してきた。
オープンなAI開発によってそのリスクよりもメリットを確実にすることを掲げ、2015年にマスク氏とベンチャー支援の「Yコンビネーター」CEOだったアルトマン氏が共同代表となって、当初はNPOとして立ち上げたのがオープンAIだ。
両氏のほか、ビジネス向けソーシャルメディア「リンクトイン」共同創業者のリード・ホフマン氏、オンライン決済「ペイパル」共同創業者のピーター・ティール氏らシリコンバレーの著名起業家らが計10億ドルの支援をしている。マスク氏は2018年に共同代表を退いたが、資金提供者にはなお名を連ねる。
「(「チャットGPT」は)AIがいかに高度化したかを人々に示した」
ドバイのサミットで、マスク氏はさらにこう述べたという。
「率直に言って、AIの安全性について規制の必要があると思う」
「チャットGPT」には、AI規制案を検討中の欧州連合(EU)も注目する。
欧州委員会委員(域内市場担当)のティエリー・ブルトン氏は、ロイター通信の取材に対してこうコメントしている。
「『チャットGPT』は、AIのソリューションが企業や市民に大きなチャンスを提供する一方、リスクをもたらす可能性があることも示した。だからこそ、高品質のデータに基づく信頼できるAIを担保するために、確かな規制の枠組みが必要だ」
●テクノロジーの手綱の取り方
「チャットGPT」の公開からほぼ3カ月。AIに「できないこと」を考え合わせると、その世界的な注目度の高さは、すでに「バブル」とも評される。
アルトマン氏も指摘するように、AIの進化が加速する一方で、そのテクノロジーをうまく制御し、社会が適応するのにはやはり時間を要する。テクノロジーの手綱の取り方を、社会もユーザーも間違わぬようにしたい。
平 和博(たいら・かずひろ)/早稲田大学卒業後、1986年、朝日新聞社入社。社会部、シリコンバレー(サンノゼ)駐在、科学グループデスク、編集委員、IT専門記者(デジタルウオッチャー)などを担当。2019年4月から桜美林大学リベラルアーツ学群 教授(メディア・ジャーナリズム)。主な著書に『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(いずれも朝日新書)などがある