ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は「視力」について。
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私は俗に言う「目の悪い人」です。小学校4年生ぐらいから近視になり、以来ずっと眼鏡やコンタクトを使用しています。一般的な視力検査の「C」のマークは、いちばん大きいものでも裸眼ではどっちを向いているのか分かりません。近視に加えて乱視もひどく、中学の同級生だった眼科医からは、「徳光の乱視はかなり気の毒」と言われました。この乱視がとても厄介で、眼鏡やコンタクトをしていても、ピントや焦点が合わなかったり、合うまでに時間がかかったりするため、とても疲れます。さらには老眼も絶賛進行中で、ここ数年はだいぶぼんやりとした視界の中で生きている次第です。
テレビの仕事をしていても、進行のカンペやモニターが見えない。例えばサッカーの試合映像を観ながらリアクションをする時など、ボールはおろかゴールシーンにすら反応できず、だいぶ遅れて「わぁ! すごい!」などと適当に叫んでいます。付け睫毛に糊を塗るという長年の作業も、見ないでやる方がむしろ正確にできることに最近気づきました。
とまあ、四十路後半になれば多かれ少なかれ誰にでも起こり得る肉体的劣化のひとつに過ぎないわけですが、最近は人の顔が判らず困っています。マスクをしていようとなかろうと、例えば大人数の番組に出る時など、よほど個性的な格好でもしてくれていない限り、誰が演者で誰がスタッフかも判別できないレベルです。
特に俳優・女優、そしてアイドルの人たちは、年齢を問わず小顔率が高いため、3メートル以上離れると、顔のパーツすら認識できず、「ミッツさん!」と声をかけられてもポカンとしてしまうことが多くなりました。なので、こちらも「誰だか分からないけれど、とりあえず顔の小さい人は共演者」と見做し、無差別に挨拶をするようにしています。