東京地裁は国と東電の双方の責任を認め18年3月に、原告42人に対し計約6千万円の支払いを命じた。だが鴨下さんらは、賠償額と低線量被曝の判断回避を不服として控訴。冒頭の訴えは、その控訴審での意見陳述を前に開いた集会での発言だった。鴨下さんは言う。
「被災地の土壌は今も放射能で汚染されていて、いわき市の私の自宅の庭は、放射線管理区域に相当する1平方メートルあたり4万ベクレルを大幅に超える場所もあります。本来は、この放射性物質を取り除いて原発事故前に原状復帰してほしい。それができないのなら、損害賠償という形で請求するしかない」
福島を、日本中を、震撼させた原発事故からまもなく9年。事故後、国は双葉町や大熊町など、放射線量が年間20ミリシーベルト超の地域を「避難指示区域」とし、住民を強制的に避難させた。だが、避難指示区域外でも放射能などの不安から自主的に避難した人も多い。事故直後は3万人以上いたとされる。
支援や賠償は、強制避難者か自主避難者かで大きな差が出た。前者は、住宅の無償提供に加え、年齢にかかわらず1人850万~1450万円の慰謝料、さらに人によっては失った宅地や建物などの賠償も支払われた。そのため、4人世帯であれば1億円超を受け取ることもあった。
一方、後者は統計上「避難者」に含まれず、賠償はわずかな賠償金と期間限定の住宅無償提供くらい。住宅無償提供は17年3月に終了したが、「経過措置」として、福島県と契約を結べば19年3月まで、公務員と同額の家賃で住み続けられる支援策を行った。それも終了した今、多くの自主避難者は住まいの問題に直面し、先の見えない生活を強いられている。冒頭で紹介した鴨下さんも、都から早期の退去を求める文書が配達証明で定期的に届くという。(編集部・野村昌二)
※AERA 2020年3月9日号より抜粋