ウイルス特有の2カ所の短い遺伝子配列(プライマー)を選びだし、その間でPCRを行って、あいだに挟まれる遺伝子を増幅する。このとき、あいだに挟まれる遺伝子配列にぴったり結合するような第3の短いDNAフラグメントを用意しておく。そのDNAは、単独だと自分の頭で自分の尻尾を噛むようなしかけ(クエンチング)がほどこされていて、そのままでは発光しないが、PCRで増幅された遺伝子に結合するとクエンチングが解けて発光し、陽性反応を起こすようになっている。すごいですよね。

 ただし、前回も書いたように、PCRは鋭敏すぎるので、症状がない人でも、少しでもウイルスが存在すれば陽性となりうる。PCR検査には、原理に精通した熟練のオペレーターを必要とし、反応に一定の時間を要する。自動装置があるとはいえ、処理能力に限界もある。

 今後望まれるのは、現在、インフルエンザのテストで使われているような、抗原・抗体反応を利用した簡易検査キットが早く開発されることだ。これはウイルスの表面タンパク質を調べているので、ある程度、ウイルス量がないと陽性にならず、その点、PCRみたいに鋭敏すぎて困ることもない。

 新型コロナウイルスのゲノムはその全容が解明されているので、表面タンパク質に対する抗体ができるのも、そんなに遠くないはずだ。

○福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授。1959年東京都生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授を経て現職。著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞を受賞。『動的平衡』『ナチュラリスト―生命を愛でる人―』『フェルメール 隠された次元』、訳書『ドリトル先生航海記』ほか。

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