看護師らのケアが必要な「医療的ケア児」にとって、保護者の付き添いを求める学校現場の対応が大きな壁になっている。国や自治体が保護者なしで通学できる体制を整え始めているが、学校現場の対応は依然として消極的だ。そんな中、前例がなかった受け入れを実現させた事例がある。AERA2020年2月10日号は、実現に至った経緯を取材した。
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全体としては低調だが、着実に前進している例もある。神奈川県立鎌倉養護学校では今年1月、これまで実施したことのない酸素吸入の流量調整を伴うケアを、保護者の付き添いなしに行っていく方針がまとまった。
同校に通う江利川優菜さん(13)は、脳性まひの影響で背骨が曲がる「側弯」が進み、右肺の4分の1強がつぶれている。日中は元気に過ごしているが、夜間の就寝中にはサチュレーション(動脈血酸素飽和度)が下がってしまい、酸素を吸入することがある。
母のちひろさんは、「そう遠くないうちに、日中も必要な状況になるかもしれない」と、19年6月、校内でも看護師による酸素吸入療法の態勢を整えたいと学校側に相談した。
学校側は慎重で、訪問教育施設活用などの事例を話題にした。同校には7人の看護師が常駐するなど態勢は整っているが、同様のケアを行った前例が無いことが壁になっていた。ちひろさんは言う。
「優菜は『学校』という単語が分かるほどに、学校や先生が大好き。家では甘えてばかりだけど学校では嫌いなものも食べ、友達や先生に刺激を受けて頑張ることができる。コミュニケーションの幅も広がってきた。こうした人間的な生活がこの子には必要だと思いました」
ちひろさんはこれまで通りに通学できることを希望。昨年8月に行った話し合いには、優菜さんの主治医で、かるがも藤沢クリニック院長の江田明日香さんも加わってこう説明した。
「低酸素状態が続くと体にダメージが残ってしまうので、学校でも酸素療法ができる態勢を作っておくことが必要です。指示書の範囲内での酸素投与は命にかかわることはなく、難しい医療的ケアでもありません」