日本に戻す理由は全くない

 それは、なぜか。

「まず、新型コロナによるサプライチェーンの寸断を避けるための生産拠点の移転については、最初、中国で感染が広がって(20年)、工場をASEAN諸国に移したほうがいいのではないか、と考える企業が増えました。ところがいざ翌年、それを実行したら新型コロナがASEANでも猛威をふるい、ベトナムを中心にサプライチェーンの寸断が起きてしまった。やはり中国がいいか、と思ったら、今度は上海のロックダウンのようなことが起きて人の動きが止まった。新型コロナを要因とする工場移転については決定打がない状態です」

 昨年から急激に進んだ円安についてはどうだろうか。

「よく『地産地消』といわれますが、消費地に近いところで製品を作る場合が多い。それによって輸送費が抑えられますから。中国の人口が減り始めましたが、経済規模やその拡大ペースは日本よりずっと大きく速い。いくら円安とはいえ、日本に工場を移転してそこから中国に輸出するより、現地で生産したほうがメリットが大きいわけです。つまり、中国の国内需要を求めて進出し、製品を現地で生産しているメーカーにとって、工場を日本に戻す理由は、全くないわけです」

 中国から海外に製品を輸出するにしても、日本からの輸出コストよりもまだ安く済む。

「なので、日本国内で相当安く物が作れる工場、コスト効率が見合って、国内需要向けの製品を作っている本当に限られた工場しか国内には回帰していません」

明確に言えない「中国は脅威」

 最近、話題に上がるようになった米中関係の緊張化によるチャイナリスクについてはどうだろうか。

「円安の話でも出ましたが、中国国内向けに生産している企業がかなりのウェートを占めている。それは生産から販売まで中国国内で完結しているので米国からの制裁の影響を受けない。つまり、そのような政治リスクはないわけです。であれば、コストが安くて済む中国に工場を置いておこう、と考える企業がほとんどです」

 仮に、中国に工場を置いておくのは危ないから、すべて日本に移転せよ、と政府が指示を出し、企業がそれに従ったら、どうなるだろうか。

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