家族ががんになったとき、何もしてあげられない無力さに悩まされる人は多い。患者に向き合ってきた医師はどう考えているのだろうか。AERA2020年2月10日号では、国立がん研究センター中央病院・精神腫瘍科長の清水研医師に聞いた。
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「家族は第二の患者」とも言われるように、その精神的苦痛は患者本人に勝るとも劣らないものです。私が家族の方からよく聞くのは「力になりたいけれど何をしていいかわからない」「何もしてあげられず無力感がある」という悩みです。それに対しては最初に「大切な人ががんになったことで衝撃を受けているのですね。でも自分を責めることはありませんよ」とお伝えします。それだけご本人のことを考えているという時点で、すでに力になっているのですから。
患者さんの多くは、「今まで通り接してほしい」と思っています。特別なことをする必要はありません。一番大切なのは、気持ちを理解しようとすること。がんとの向き合い方は人によって千差万別なので、本人が告知をどう受け止め、何が心配で何に困っているのかをしっかり聞くことが大切です。「家族は自分のことをわかっている」と感じられれば、本人は安心します。
反対に、気持ちの理解もそこそこに、最新の治療法や名医の情報、サプリなどを探して勧めてはいけません。それは、「自分は何もできない」という不安を打ち消すための自分本位な行動ではないでしょうか。相手が今それを必要としているのか、冷静に考える視点が必要です。
治療中の気持ちの浮き沈みには、家族であっても付き合うのは大変です。弱音や文句を言いたくなります。でもそういう感情にフタをしないでください。模範的な正義や道徳に縛られすぎていませんか。つらい気持ちを押し込めても心の底にくすぶり続けます。患者を長丁場で支えるには、ご自身のストレスケアをしっかりしてください。
家族はここに注意!
●患者のことを真剣に考えるだけで力になっている。無力と思う必要なし
●本人が欲していない最新の治療法や名医情報などは調べる必要なし
●本人が悲しんでいる時は、一緒に悲しんであげることが大事
●家族も弱音を吐いていい。自分の感情にフタをしないで
●看護の負担で昇進が心配? 本当に大切なことに気づくチャンスかも
(編集部・石臥薫子)
※AERA 2020年2月10日号