その上で、SBGは価値が下落したアームHDの株を、孫正義氏が設立したソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)に「現物出資」という名目で移した。高く買った株を安く渡せば、損失が出る。こうしてSBGは、一連の株の動きで巨額の損失が出た、というシナリオを完成させた。実際にはアームHDやアームへの影響力は維持したままで、何ら損などしていないのに、だ。
SBGはこの損失を決算に計上することで巨額の利益を相殺し、法人税を大幅に圧縮した。
財務省主税局の幹部は一連の株の動きについて「違法ではないが、意図的に赤字をつくり出す巧妙なもの。これだけ利益をあげているのに税金を納めないとなれば国民の理解が得られない」と話す。
財務省は対策として、「子会社を買った時の簿価の1割を超える配当を出した場合は、その分だけ簿価を下げる」ことを決めた。簿価を下げれば売却しても「損失」を計上できなくなり、前出の手法は使えなくなる。ただ、さかのぼってSBGに適用することはできず、巨額の損失は20年3月期決算にも繰り越され、引き続き法人税圧縮の役割を果たすことになる。
SBG広報は「アームグループが資本関係を再編し、当社も海外事業の発展に寄与すると判断した。税務申告は税法に従って適正な処理を行った」とし、今回の税制改正については「コメントを控える」と回答した。
三木義一・青山学院大教授(租税法)は「SBGのような手法が認められると、企業グループを使っての同様な租税回避行為がなされるので、対策は当然だ。企業が活動しやすいよう様々な制度が認められてきたが、それに合わせて新しい租税回避方法もでてくる。いたちごっこのようだ」とみている。(朝日新聞記者・松浦新)
※AERA 2020年2月10日号