タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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お正月に、家族でタスマニアに行ってきました。タスマニア島はオーストラリアの南東部、大陸の南に浮かぶ逆三角形の大きな島です。海にそそり立つ断崖や白い砂浜の連なる美しい海岸線、1500メートルを超える岩山、年間降水量が3千ミリにもなる豊かなレインフォレストなど、変化に富んだ自然が見られます。島の西部には世界自然遺産のフランクリン‐ゴードン・ワイルドリバー国立公園も。樹木のタンニンで琥珀(こはく)色に染まった水を満々とたたえて流れるゴードンリバーの両岸には、最も古いもので樹齢3千年にもなる樹々がうっそうと生い茂っています。平坦で乾燥した西オーストラリア州からやってきた私たちにとってはとても珍しい、豊富な水に恵まれた土地でした。
タスマニアは12月から2月の真夏の時期でも気温はほとんど20度台で、朝晩は一桁になることも。滞在中は上着が手放せず、クレイドルマウンテンという美しい岩山を望む一帯をトレッキングした時は、真冬の装備でした。低木や苔の間を網の目のように小川が流れる平原では、野生のウォンバットを見ることができます。あちこちにある美しい滝のそばには、カモノハシが暮らしていました。エキドナ(ハリモグラ)、ワラビーなどもたくさんおり、保護センターでは感染性のがんで数が激減しているタスマニアデビルを見ることもできました。
10日間、島の大自然とそこに暮らす生き物たちに触れて、このような命のつながりが作られるのにかかった何万年という月日を想像しました。大陸東南部の1千万ヘクタール以上を焼いてなおも広がる森林火災とその後の洪水に胸がつぶれるような思いです。
復興支援には寄付のほかに、観光で豪州を訪れることも有効です。森林火災の影響のない場所はたくさんあります。北半球の動植物とは全然違う大自然を見る旅をぜひ。
※AERA 2020年2月3日号