本誌が昨年12月に報じた、アスペルガー症候群の夫に苦悩するカサンドラの妻たちの声を伝えた記事は大きな反響を呼んだ。パートナーの気持ちを理解しようと動く夫たちがいる。AERA2020年1月27日号から。
【アスペルガーの特性を持つ男性とパートナー女性のすれ違いの実例】
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アスペルガー症候群(AS)などの発達障害と夫婦関係を専門とする臨床心理士の滝口のぞみさんによれば、特に若い世代では自身のAS特性と、パートナーの苦痛に向き合い、学ぼうと努力する人も増えている。デザイン会社に勤める男性(32)もその一人。2年前から付き合っている彼女との間でよく「かみ合わないけんか」が起き、不思議に思った彼女がASのことを調べ、彼に指摘した。男性は当初はムッとしたが、関連本を読むうち自分も当てはまると感じた。
「彼女は僕に本気でキレた初めての人。それまでは、よく遅刻するのも『そういうキャラ』で許されてきたし、上司に怒られたら、とりあえず謝ればいいやと。ダメなら『じゃあ辞めます』と言って7、8回は転職していました。これも、ゼロか100かの両極しか考えられないASの特性なんですが」(男性)
2人でカウンセリングに通ううち、他の人は自らを俯瞰で見たり、相手の気持ちや事情を考えていることを知り、驚いた。
男性は毎回のカウンセリングに備え、彼女との間で起きたトラブルをスマホのメモに記録しておく。自分の認知の仕方が世間とどう違っているのか理解し、納得したいのだ。概念化は難しくても、「自分の中にデータを増やしていけば、点と点がつながっていくと思う」(男性)。
もちろん、ASを認めない当事者もたくさんいる。パートナーの苦痛は計り知れないし、別れることも選択肢だ。だが、カサンドラとASの支援に取り組む「アスペルガー・アラウンド」代表のSORAさんは、「ASの人を悪者にするだけでは解決にならない」と指摘する。
「ASの人は変化がとても苦手ですが、こちらが関わり方を変えれば少し変わる。その小さな変化をカサンドラさんが認めることも大事です。変化の仕方がカサンドラさんの期待通りではなくても、それが当たり前と受け止める。これもダイバーシティーの考え方と同じで、違っていてもいいと思えるかどうか」
離婚したいと思っていたAS男性の妻は最近、「娘の幸せを一緒に喜べるのはやっぱり家族である夫なんだ」と気づいた。夫も少しずつ努力している。すぐに同居は無理だが、この先どちらかが困った時は助け合って、人生の最後まで一緒にいよう。そう思えるようになった。(編集部・石臥薫子)
※AERA 2020年1月27日号より抜粋