近年、世界的にも美食の街として知られるようになった東京。観光客増加の影響もあり、ミシュランの星付き飲食店では予約争奪戦が繰り広げられている。さらに最近では、意外な場所にも観光客が出没しているという。AERA 2020年1月20日号では、インバウンドの影響を受ける東京の飲食店を取材した。
【写真】てんぷら界の先駆者「銀座てんぷら 近藤」の近藤文夫さん
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予約困難店の増加は外国人観光客の増加と密接な関係がある。日本政府観光局の発表によると19年の訪日外客(インバウンド)の総数はおよそ2935万人(1~11月)と過去最大を記録した。東京五輪が開催される今年は、さらにその数は増加すると言われている。彼らの訪日の目的の上位を占めているのが「飲食」だ。
東京・銀座に店を構える「てんぷら近藤」は訪日外国人憧れの飲食店だ。店主の近藤文夫さん(72)は昨年、現代の名工にも選出されたてんぷら界の先駆者。魚介中心だった江戸前てんぷらの世界にいち早く野菜を取り入れ、てんぷらという食べ物を和食のスタンダードとして世界に認知させた功労者だ。今では客のおよそ半分をインバウンドが占める。かつててんぷらは、油っぽく、胃にもたれるという理由で、同じ東京を代表する鮨(すし)と比べると日本人の料理評論家でさえ敬遠していた時代があった。しかし、近藤さんは近年、ある変化を感じ取っていた。
「あるフランス人のお客様が、きすという魚を食べて、なんて香りのある魚だとおっしゃいました。日本人は美味しいけど、淡白だね、で終わりなんですが、外国人のお客様は確実に魚の微妙な香りを感知している。これは、私たちが本当の意味で伝えたかったこと。彼らが情報ではなく、自分の舌で料理を味わっている証拠です」
そうした東京を訪れる外国人が、予約困難店以上に出没する場所がある。
東京・浅草にある「ホッピー通り」。通称「煮込み通り」だ。浅草六区や場外馬券売り場にほど近いこの通りは、昼から酒が安く飲める「センベロ」の聖地として有名だ。かつて昭和の大衆酒場だった通りは一時、閑散としたこともあったが、今では外国人観光客で昼からにぎわっている。