

EU離脱の公約を掲げ総選挙を圧勝したジョンソン英首相率いる保守党。過半数を大きく超える議席数を獲得した背景とは何だったのか。AERA 2020年1月20日号は、労働党の伝統的な地盤だった地域に注目し勝因を分析する。
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「英国の可能性を解き放つ1年にする。まずは月末のEU離脱の達成からだ。主権国家として自ら進路を決め、お金や法律、国境、貿易に関する主導権を取り戻し、自信を回復する」
新年のビデオメッセージにいつものボサボサ頭で登場したジョンソン首相は、意気揚々と宣言した。
EU離脱を決めた国民投票から3年半。英国は1月31日、ついにEUを離脱する。スムーズな離脱に向けた離脱協定案の批准へ、必要な法案が近く英議会で可決され、成立する。昨年12月の下院総選挙で与党・保守党が650議席のうち過半数を大きく超える365議席を獲得して大勝。早期の離脱達成をめざす政権にとって、これまで最大の「障壁」は離脱に慎重な議会の存在だったが、政府の方針を支持する与党議員が一気に増えたことで、行く手を遮るものはなくなった。
「『離脱を成し遂げよ』という民意の負託を受けた」とジョンソン氏は胸を張る。おおかたの予想よりも圧倒的な勝利を保守党にもたらしたのは、いったい何だったのか。
「保守党なんかに入れたことはなかった。怒った母親が墓場からよみがえるかもしれないから。でも今回は、離脱の実現の方が大事なんだ」
選挙戦まっただ中の昨年11月末、イングランド北東部のパブで、元エンジニアのレニー・マトンさん(72)は、自分に言い聞かせるように語った。
イングランド中部や北部に広がる旧炭鉱地帯は労働者階級の人たちが多く、最大野党・労働党の伝統的な地盤だった。労働党カラーにちなんで「レッド・ウォール(赤い壁)」と呼ばれ、炭鉱を廃止に追い込んだ故サッチャー元首相への恨みと、保守党への敵意は根強く残る。一方で、EU離脱を支持する人も多い。今回の総選挙で、こうした地域では保守党が議席を大きく伸ばし、保守党カラーの「ブルー・ウォール」に生まれ変わったとさえいわれる。