「米国とイランの戦争になる」
「第3次世界大戦になるかもしれない」
メディアではそんな反応も出ているが、筆者はその可能性は低いと答えてきた。イランはもちろん、米国も全面対決は避けたいと考えているからだ。
トランプ氏は暗殺の直後「戦争を始めるつもりはない」と記者団に述べた。イランによるミサイル攻撃の後も、ツイッターで「すべて順調」と反応した。米軍部隊はイランの報復攻撃を予期し避難していたため死傷者は出なかった様子だ。
トランプ氏がイランと戦争を始めたければ、米軍へのミサイル攻撃に対しただちに反撃を命じるところで、「すべて順調」とは妙な反応だ。8日の演説でも報復攻撃は語らなかった。トランプ氏は2016年の大統領選で、01年のアフガニスタン攻撃以来米国が中東で長期の戦争を続け、莫大な戦費を費やし財政危機に面しながら成果をあげていないことを批判し、国民の厭戦気分を煽った。今年11月の再選を目指すためには、イランとの戦争は避けたい。
イランの人口は8300万人でイラクの2・1倍、面積は3・7倍。イラン陸軍と革命防衛隊の兵力は計47万人で、他に予備役と民兵60万人が戦闘可能とみられる。
一方、米陸軍と海兵隊は計66万人。さらに、ペルシャ湾岸から首都テヘランへは1千キロ以上の距離がある。ゲリラを相手に補給路を守るのは困難だし、仮に首都を奪えたとしても、ゲリラを制圧し、統治ができる公算は低い。仮にイランと戦う場合、米軍は航空攻撃や巡航ミサイルに頼るしかない。アフガニスタン、イラクのような長期の地上戦を繰り返すことはないだろう。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)
※AERA 2020年1月20日号