米軍がイランの「英雄」を殺害したのを機に、両国の対立が激しさを増している。戦争勃発やその拡大を懸念する声もあるが、その可能性は低そうだ。
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1月3日、米軍は無人機から発射したミサイルで、イラクのバグダッド国際空港付近を走る車列を攻撃した。この攻撃でイラン革命防衛隊の先鋒「コッズ部隊」司令官、カセム・ソレイマニ少将を殺害。同行していたイラクのシーア派民兵組織
「人民動員隊」のムハンディス副司令官も死亡した。
他国に対する武力行使は国連憲章で禁止されており、国連安全保障理事会が容認した場合か、武力攻撃が発生した場合の一時的な自衛権行使以外は許されない。今回の場合、イラン、イラクが米国を攻撃していたわけではないから、米国の行動は国際法違反と言うしかない。
イランは激しく反発。8日にはイラン革命防衛隊が、米軍が駐留しているイラク空軍のアサド基地(バグダッドの西北西約170キロ)とイラク北部のアルビル駐屯地に対し短距離弾道ミサイル22発を発射、アサド基地には15発が落下した。使われたのはイラン製の「ファテフ313」で、全長約9メートル、重量3.5トン程度、射程500キロとされる。
トランプ大統領はなぜ、このような攻撃を命じたのか。米国務省は「イラク戦争に関係する戦闘で米兵608名以上がシーア派民兵組織など、イランの代理勢力などにより殺された」とし、ソレイマニ司令官がそれを指導していた、と言う。だが、イラク戦争で米国兵に4300人、民間人に12万人以上の死者が出たのは、そもそも米国が国連安全保障理事会の容認がないまま、2003年にイラクに侵攻した結果だ。
米軍やCIAは、無人機による反米組織幹部の暗殺をパキスタン、アフガニスタン、イエメンなど各地で半ば公然と行ってきた。トランプ氏にとって今回のソレイマニ司令官殺害もその一環であり、イラン側の重大な反発を招くとは予想しなかったと思われる。彼は諌言をする側近を次々と排除し、議会にもはからず恣意的な言動をするため、危険な独裁者になりがちだ。