華麗な見た目とは裏腹に、とてつもなくハードなスポーツでもある。ノービス、ジュニア時代から日本フィギュアスケートを担う逸材として将来を嘱望され、シニアになってからは世界の強豪と渡り合い、フィギュアスケートの地位を高めてきた。過密日程も重なり、当然疲労は自覚していたが、言い訳にはしない、したくない。
「競泳の選手なんか、何レースもやるわけですし。内容が違うかもしれないですけど、そういうのに比べてみたら、僕なんか5週間で3回しか試合やってない。それでこれくらいの体力しかないのかと思うと、本当に力を使って跳んじゃっているんだな、と。もっと力を抜いて、自分らしい、いいジャンプが跳べるようにしなきゃいけないなと、今は考えています」
負けは負けとして受け入れる。しかし、ただの敗北としないためにも、反省すべき点は反省し、成長のヒントだけは見つけ出した。それは、ジャンプの力みをなくすこと。
例えば、左足のつま先をついて跳び上がるトーループなら、氷を力強くとらえるのではなく、軽い流れのなかでつま先をつく動きを模索する。その道の先に見据えるのは、まだ誰も成し得ていない4回転アクセル(4回転半)。トリプルアクセルを自分自身の代名詞と自認するだけに、どうしても世界で最初に決めたい。しかも、4回転半を回り切るには他のジャンプよりも高く、長い跳躍が必須だ。おのずと、他のジャンプにもいい影響を与えると考える。
「(4回転)ルッツ、ループに関しても、たぶんアクセルができるようになってきたら、もっと確率も上がってくると思うので。いろんな選択肢はあるかなと自分のなかでは思っています」
幅広い年代がそろう全日本選手権ならではの収穫もあった。宇野の成長を喜び、ジュニア世代の佐藤駿(しゅん・15)の4回転ルッツに驚嘆し、鍵山優真(かぎやまゆうま・16)のぶれない回転にも目を見張った。
「僕も(宇野)昌磨も追われる立場と言われるけど、一つひとつ見れば追う立場でもある。4回転ルッツとか、それぞれのジャンプを見れば追う立場だし、技術を習得したい。今回、(佐藤)駿は4回転ルッツを跳べているのをみて、ああいうふうに跳びたいと思ったし、鍵山の軸の強さなど見習うところはあります。違うタイプの選手だから、見習うところ、それをまた見て、うまくなっていくところはいっぱいあると思うので、うれしいことだなと思います」
悔しさと刺激をエネルギーに変えて、羽生は立ち上がり、リンクに向かってきた。もちろん、これからもだ。(朝日新聞スポーツ部・山下弘展)
※AERA 2020年1月13日号