指揮者もストリーミングでコンクールをチェックする時代。チャイコフスキー国際コンクールで2位になって以来、国内はもとより世界的な注目を集め、ロンドンやソウル、モスクワなどで協奏曲を演奏し、喝采を浴びた。ドイツやラトビア、スイスからも招かれ、リサイタルを開く予定だ。
今秋、封切られた話題の映画「蜜蜂と遠雷」では天才少年・風間塵(かざまじん)のピアノを担当。原作も大好きで、作中の課題曲《春と修羅》では塵のキャラクターを考えて弾き方に工夫を凝らした。
「《春と修羅》に出てくる藤倉大さん作曲のカデンツァ(即興演奏)は、主人公4人の中でもいちばん難しくて、稲妻みたいなトレモロがあるし不安定なリズムがずっと続くんです。4曲とも弾いてみたけど塵君のカデンツァがいちばん好きだし、良い曲だと思うな」
現在、東京音楽大学でソリストとしての研鑽を積むほか、室内楽の勉強にも取り組んでいる。来年にはベルリンへ留学することも決まった。
「コンクールで良い成績を収めても消えていったピアニストはたくさんいます。学長の野島稔先生には『勉強する時間が取れる2位で良かった』と言われました。自分でもそう思います」
人気ピアニストに躍り出た藤田真央も、普段はまだ発展途上の学生である。そのことを本人も周囲もよくわかっていて、遠い先を見つめている。
(フリーライター・千葉望)
※AERA 2019年12月23日号