藤田真央(ふじた・まお)/1998年、東京都生まれ。今年はCD「映画『蜜蜂と遠雷』~藤田真央plays風間塵」と「ショパン:スケルツォ/即興曲」をリリース。コンサートではサイン会に長い列ができる(撮影/写真部・掛祥葉子)
藤田真央(ふじた・まお)/1998年、東京都生まれ。今年はCD「映画『蜜蜂と遠雷』~藤田真央plays風間塵」と「ショパン:スケルツォ/即興曲」をリリース。コンサートではサイン会に長い列ができる(撮影/写真部・掛祥葉子)
この記事の写真をすべて見る

 今年6月、モスクワで開催されたチャイコフスキー国際コンクールで見事に第2位入賞を果たしたピアニストの藤田真央。コンクールでも随一の人気者となった藤田に、大きな舞台で実力を発揮する秘訣を尋ねた。AERA 2019年12月23日号に掲載された記事を紹介する。

*  *  *

 チャイコフスキー国際コンクールのライブストリーミングを見ると、かすかな笑みを浮かべて演奏する藤田真央(21)の姿にこちらまで幸せな気持ちになる。1次予選のモーツァルトでは軽やかな音を響かせ、本選のラフマニノフでは超絶技巧に冴えを見せた。童顔ゆえ「ベビー・マオ」と呼ばれる人気者となったのもうなずける。2017年にスイスのクララ・ハスキル国際ピアノコンクールで1位に輝いた経験はあるが、小さな頃から憧れていたチャイコフスキー国際コンクールでの2位入賞は特別の嬉しさがあったことだろう。

 本番でさほど緊張した様子はうかがえなかったが、本人は、

「緊張? してますしてます(笑)。でもそれは舞台に登場する前のことで、出てからは全然しないんです」

 という。何か集中力を高めるためのコツはあるのだろうか。

「コツというほどのことは何もないですね。曲に没頭するのがいちばん大事で、それを考えてピアノに向かえば大丈夫です」

 さらりと答えたが、幼少期はとても恥ずかしがり屋だった。授業参観でも手を挙げられず、いつも後ろを振り返って母の姿を確かめるような子だった。

「ピアノは小さな頃からけっこう弾けていたので、『ピアノだけは人にすごいと思われたい』というところがあったから大丈夫だったんですけれど」

 恥ずかしがり屋の男の子は今では闊達(かったつ)な青年になり、本番直前の取材でも笑いが絶えない。開演直前に衣装に着替え、パッとステージに出ていく。

「清水和音先生から、『ウラジミール・アシュケナージ(指揮者で名ピアニスト)に教わったことでいちばん役に立っているのは「本番前はズボンのチャックを確かめろ」ということだ』と言われました。私もピアノに向かう途中で気づいたりするので気をつけなくちゃ(笑)」

次のページ