「義務化」によって、つながらない権利を実現したのは、大阪市に本社があるソフトウェア開発の「イルグルム」。11年、年に1度、土日を含む9日間の連続休暇の取得を、役員を含む全社員の義務にし、その間は一切、メールや電話などでの仕事関係の連絡は禁止とした。名づけて「山ごもり休暇」だ。人事部の廣遥馬(ひろ・ようま)さん(26)は言う。
「労働環境の整備は会社にとって重要な課題。しかし、制度をつくっても運用されないと意味がない。そこで強制的に、心置きなく休んでもらうことにした。義務化は、会社としての本気度の表明です」
取得率はスタート当初から100%。約120人いる全社員が、現在も利用している。成功のカギは、徹底した「引き継ぎ」だ。社内には独自の「業務引き継ぎ書」があり、提出しなければ休めないことになっている。
携わっているプロジェクト、懸案事項、緊急連絡先、エラーが起きた際の対応手順……。こうしたことをすべて書き込み、「山ごもり」前に社内ネットで共有する。結果として、誰が休んでも円滑に業務が進む柔軟な組織を作り上げた。
同社プロモーション部長の加嶋美穂さん(34)は笑顔で言う。
「休み中は、仕事の連絡は絶対に来ないとわかっているので、心からリフレッシュでき、気持ちを切り替えまた1年頑張ろうと思えます」
08年の入社。制度スタート時は、「みんな忙しいのに休むと迷惑をかける」と抵抗感があったが、いざ休んでも何の支障もなかった。例年6月に山ごもり休暇を取得し、これまでニューヨーク、バリ、香港などで休暇を楽しんだ。今年は同僚と2人でフランス、ポルトガルなどヨーロッパ4カ国を巡った。
「普段は上司が行う業務を、上司が『山ごもり』中は部下が行うことになるので、部下の成長を促す結果にもなっています」(加嶋さん)
同社によると、山ごもり休暇で休みを取りやすい職場環境も生まれた。有給休暇の取得率は「山ごもり」導入前には2割程度だったが、18年は約7割に。男性社員の育児休業の取得率も上がっているという。
今から来年の「山ごもり」が待ち遠しいと話す加嶋さん。今度はどこへ?
「ハワイかな。リゾートが大好きなので(笑)」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2019年12月23日号より抜粋