災害が起きないのが無理であるのと同様に、差別は必ず起きます。差別はしないに越したことはないですが、災害でもレジリエンス、起きた時にどう復元するかという強靱(きょうじん)性が重要であるように、差別が起きた時はすぐに被害者を救済し、再発を防ぐバネのような、強靭な社会にしていくことが大切です」

●加害者でも被害者でもない第三者が介入する必要

 日本は1995年に国連の人種差別撤廃条約を批准したが、人種差別を犯罪だとして処罰する法律はない。川崎市で11月15日、施行されれば全国初となる刑事罰が盛り込まれたヘイトスピーチへの条例案が公表され、前向きな動きは出つつあるが、差別事件が起きた時、現状ではどう対応できるのか。反レイシズム情報センター(ARIC)代表の梁英聖(リャン・ヨンソン)さん(37)は、「法律がなくても社会で自主的に判断し、加害者でも被害者でもない人が加害者を止める『第三者介入』が必要です」と語る。

 日本では、被害者が自分の被害を回復するという方向性での対策はとられている。だが、マジョリティーもマイノリティーも包含した社会全体で差別をどのように抑制していくか、という観点からの対策が薄いと梁さんは言う。

 差別の問題は、加害者と被害者という当事者だけの問題ではない。例えば、ナチズムを経験した欧州の国には、レイシズムは社会全体のセキュリティーを揺るがすおそるべきものだという認識があると、一橋大学の鵜飼哲特任教授(64)は言う。

 フランスでは毎年、国家人権諮問委員会が「レイシズム、反ユダヤ主義、外国人嫌悪に関する年次報告」という報告を出す。「移民が多すぎると思う」「イスラームに否定的」などの項目でアンケートをし、社会の中でのレイシズムのパーセンテージを測っている。レイシズムが存在するということを数字で毎年目に見える形にして、それを一定の水準以上に上げないために何をすればいいかという風に問題を立てている。

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