次の紀平は、髪留めを直しながら、その得点を耳にした。紀平の自己ベストは154.72点。
「完璧な演技をしても超えられないかもしれないと、初めての感情が湧きました。もし私の調子がちょっとでも悪かったら、160点台と聞いた途端に不安で緊張していたと思います。でも練習が良かったので、なんとか自分に集中しました」
1本目のトリプルアクセルはステップアウトになるミス。すぐに切り替え、2本目は連続ジャンプで成功させた。
「2本目は絶対に成功して連続ジャンプにしないと、2本挑戦している意味がないと思って、跳びました」
演技後半でもスピードが落ちず、緩急溢れる演技をみせた紀平。演技点では、構成と音楽解釈で9点台という高得点をマークし、総合230.33点と自己ベストに迫る高得点となった。
「ミスがあっても230点が出たのは今後の自信になりました。でも今回は、4回転がないと五輪の金メダルには届かないと再確認させられました」
一方、劇的な点数で優勝したトルソワは、あどけない笑顔。
「やっと技術点で100点を超えました。次の試合に向けては、スピンやステップなども強化していきたいです」
紀平も、刺激を受けてモチベーションを高めている。
「まだけがは完治していませんが、その中でどうやって4回転を効率よく習得できるかを考えています。まずは質の高い3回転トウループと3回転サルコウが、4回転への近道になると思います。諦めていません」
GPファイナルは、4回転やトリプルアクセルを跳ぶ女子が勢揃いする可能性が高い。かつてない戦いに向け、まっすぐ前を向いた。(ライター・野口美恵)
※AERA 2019年11月11日号