そして晴れて成果があがり、論文が書かれると、多くの場合、一番汗を書いた人、つまりポスドクがファーストオーサー(筆頭著者)となる。そのポスドクがいなければ結果は出ていなかったはずだから。そしてボスはラストオーサー(責任著者)となる。

 ここまではよい。それぞれ研究クレジットの取り分が公平にある。ポスドクはこの業績をもとにステップアップし(多くの場合、小なりとはいえ独立した研究室を構えるポジションを得る)、ボスはさらに名声を高め、研究資金を得るようになる。

 さらに何年か、あるいは何十年かが経過し、この研究分野がどんどん展開し、大きな研究の裾野を形成するような、一大トピックスに発展することがある。あるいはここから応用分野が開け、産業界に画期的なイノベーションをもたらす一大マーケットを作り出すことだってありえる。

 すると、最初に井戸を掘ったパイオニアが栄誉を受けることになる。それがノーベル賞だ。ところがノーベル賞はボスの方にしかこない。ポスドクの多大なる貢献はノーベル賞の対象にならない。これがノーベル賞の冷徹な現実である。

 古くは、逆転写酵素を発見した水谷哲氏とハワード・テミン氏(1975年)、免疫グロブリン遺伝子のDNA再編集を解明した穂積信道氏と利根川進氏(1987年)、近年では、iPS細胞を発見した高橋和利氏と山中伸弥氏(2012年)、オートファジー研究の水島昇氏、吉森保氏と大隅良典氏(2016年)などの場合が典型例だ。いずれもボスだけがノーベル賞の栄誉を受け、ポスドクたちは共同受賞者とはならなかった。

 ところが、今回のノーベル物理学賞(系外惑星の発見)では画期的なことが起こった。次回は、その物理学賞に触れる。

○福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授。1959年東京都生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授を経て現職。著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞を受賞。『動的平衡』『ナチュラリスト―生命を愛でる人―』『フェルメール 隠された次元』、訳書『ドリトル先生航海記』ほか。

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