お笑いライブの構成のように、一章一章に仕掛けがあり一話完結的にも読めるが、それらがつながって大きな物語になり、読者は最後までひっぱられていく。五郎左衛門と又兵衛の関係は、一種のバディ(相棒)ものでもある。

「ダウンタウンをそばでみていて、漫才コンビって不思議だなと思っていました。お互いの魅力に惹かれあい、一つの目標に向かって仲良く兄弟より濃くなる瞬間があったり、赤の他人よりむかつく時があったり。でもなんか心細いから二人でいないと立ち向かえない。漫才コンビのそんな感じが好きで、そういう軽やかさも描きたいと思いました」

(編集部・小柳暁子)

■HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんのオススメの一冊

『神様の暇つぶし』は、「あの人と過ごした夏」を封じ込めたような小説。HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 事故で父親を亡くしたばかりの藤子(ふじこ)の元に、体の大きな無精髭の男が、夜の濃い闇とともに現れる。どういう事情か、腕から血を流していた。父親が慕っていた、写真家の全(ぜん)だ。親子以上に年の離れた男とその夏をともに過ごすことは、まだ大学生だった彼女の人生を、それ以前と以降にきっぱりと分けてしまう。それほどの夏を、この小説はまるごと封じ込めている。胸が痛む歌をしつこくリピートするみたいに、何度でも連れ戻されに行ってしまう。

 まだ出会ったばかりの頃、藤子は全に言った。「右に進んで後悔できるのは左の道を知っている人だけでしょう」。洗っていないベタベタの髪や、好きになれない自分の容姿や、そんな自分が相手を求めてしまう恥ずかしさを、そのごつごつした手でくしゃっとしてくれる男がいない左の道の、なんて味気のないことか。

AERA 2019年10月21日号

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