

是枝裕和監督の最新作「真実」は、フランス・パリを舞台に繰り広げられる母と娘の物語だ。ジュリエット・ビノシュは娘リュミールを演じた。AERA 2019年10月21日号から。
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カンヌで最高賞を受賞した「万引き家族」に続く作品で、初の海外撮影。学生時代のミューズだったジュリエット・ビノシュに大御所カトリーヌ・ドヌーヴまで迎えれば、重圧を感じそうなものだ。が、映画「真実」は美しくもユーモラスで軽やかなホームドラマに仕上がった。「肩の力を抜いて、短調の曲が続いたから長調で」。そんな意識だったと是枝監督は言う。
プロジェクトはビノシュさんから声をかけて始まった。
ジュリエット・ビノシュ(以下、ビノシュ):是枝さんの感受性と優れた観察眼に興味がありました。白か黒かではなく、その間のさまざまな色合いが描かれている。そこがすばらしいと思います。この映画の(女優の母と娘という)テーマはカトリーヌに会ったのがきっかけですか。
是枝裕和(以下、是枝):いえ、フランスのプロデューサーの自宅でお手製のご飯をご馳走になったのがきっかけかな。その時、キャリアの晩年を迎えた老女優という、以前、舞台用戯曲として書きかけていたモチーフを、老女優と女優になりそこねた娘の話に書き換えて、ビノシュさんを娘役にしようと思いついたんです。カトリーヌさんとは会えていない。何度かすっぽかされました。緊張して待っていたら「今シャワー浴びてるから」とか「今日は行けそうにない」とか(笑)。
ビノシュ:あはは、わかります。「真実」は最初、監督からコメディーだと言われたんです。でも私は、もっと緊張感のある話だと思った。私の演じたリュミールは、ストーリーに重さを運んでくる、やや悲劇的な存在です。嘘ばかりつく母親を持っているんですから。二人の母娘関係は、私自身の母との対立とも重なります。嘘をつかれ、裏切られても、最終的には愛や優しさで相手の欠点を許そうとする。目の前で親が老いていくと、いままで見えていなかった脆さや弱さにも気づく。そうすると真実を追求しようとか承認欲求とかを超えて、親を思いやる気持ちが出てくるんですね。