

芥川賞作家・吉田修一の最高傑作とも名高い『犯罪小説集』が映画になった。見る者の胸を抉る映画「楽園」はどのように生まれたのか。AERA 2019年10月14日号から。
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「楽園」は、吉田修一の短編作品集『犯罪小説集』からの2作品をもとに映画化された。青田に囲まれたY字路で起こった少女失踪事件から12年後が描かれる。綾野剛は周囲から追い詰められていく青年を演じた。綾野は原作とどう向き合ったのか。
綾野剛(以下、綾野):「現場から役をつくっていく」ことが自分のなかで前提にあった気がします。撮影前に原作を読むことにメリット、デメリットがあるということではなく、原作の引力に魅了されてしまうと、2時間でしか描けない映画のなかで、「このシーンを追加できないか」と思ってしまうというか。
小説で完成されているということは、それ以上がそもそも存在するはずがないという感覚もあります。でも、絶対にそこにしか書かれていない確かな答えがあると僕は思っているので、今回は原作を撮影の中盤に読みました。お守りというか、精神安定剤のような感覚で現場に持っていっていて。
吉田修一(以下、吉田):綾野君は「原作が完成されている」と言ってくれましたけれど、原作者から見ると、そこに監督が入って脚本になり、さらにキャストが加わって、映画になる。自分が書いたものであることに変わりはないけれど、色がつき、世界が広がり、どんどん深くなっていく。これこそ、映画化してもらううえでの楽しみですね。それに綾野君は本当に深く読んでくれる。
綾野:修一さんの原作は、“台本になることを受け入れてくれる小説”であることがすごいと思います。なにをやっても、あの匂いは崩れない。作り手にずっとナイフを突き付けられているような感覚なので、ちゃんと向き合おう、と。
綾野演じる豪士(たけし)は、母親と偽ブランド品を売りながら生きる。映画の冒頭、小走りする豪士を見て、少しだけ彼のことがわかった気になるから不思議だ。