綾野:まず豪士の足元を考えたときに、サンダルを履く、という選択肢もあったのですが、なんというか豪士はそんなに軽やかな人ではない。素足を見せている人って確固たる自信と余裕がある人だと思っていて。

吉田:なるほどね、素足は本当にそうだよね。

綾野:「豪士にはスニーカーしかない」と思って。そこで、自分が中学のときかな、下駄箱に側面が削れてV字になった靴が置かれていたのを思い出して。なぜそんな削られ方をするかというと、内股だから。それらを瞬間的に思い出して、内股になりました。

吉田:面白いですね。豪士が靴下をしっかり履いて、靴下を伸ばしている感じは目に浮かぶ。それ以外考えられないな。

綾野:だから豪士が大人になってからもサンダルは履かず、靴の色も若いときに比べて重々しい感じにしていったんです。

吉田:衣装さんと相談するの?

綾野:話しました。太陽に当たって、焼けたくすんだ色にできないかと。豪士の服についても、この作品に関しては、監督もスタッフも「うん、それだよね」というのが明確だったんです。

 青田に囲まれた村で、ある日下校途中の少女の失踪事件が起きる。12年後、今度は別の少女が同じ場所で姿を消す。狭い社会のなかで、疑いの目が向けられるのは、豪士のような人間だ。

綾野:修一さんは物語に入り込みすぎて、追い詰められることはありますか?

吉田:それが、あるんですよ。豪士が出てくる「青田Y字路」を書いているときが、これまで書いてきたなかで一番苦しかった。なぜか孫娘である少女を失ったおじいちゃんの気持ちになって。“なにか大切なものをなくした人間”になるんです。

綾野:それはキツいですね。

吉田:毎日続くからね。毎朝、そんな気持ちで起きるんです。あれは嫌だったな。全然違うかもしれないけれど、「役者さんって撮影中はこんな感じで日々過ごしていらっしゃるのかな」とちらっとだけ思ったんですね。

追い詰められるというよりは、その世界に自分がいる。

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