
「預けたお金はすべて戻ってくるわけですから、別に急いで銀行に行って、お金を下ろす必要はないはずです。ところが、SNSによって銀行の前にできた列を写した画像が拡散されると、それを見た預金者は『あれっ、自分が預けたお金は大丈夫かな』と思って、列に並んでしまう。あるいは、オンラインで預金の引き出しや移し替えを行う。預金は保護されると頭で理解できても、SNSで切り取られた情報を目にすると、冷静に受け止められる人は少ない。当然、そういう心理は働きます」
SNSが金融市場を動かす大きな力となることが広く認識されるようになったのは2年ほど前。「ロビンフッド問題」がきっかけという。
「Robinhood(ロビンフッド)というスマホ向けのアプリを提供している証券会社があるのですが、取引手数料が無料で、そこにはSNSの情報をもとに株式などを売買する人が大勢いる。SNSで『この株はいい』と書き込まれれば、みんな買いに走る。逆に、ネガティブな情報が書き込まれると、一斉に売られる。そんな感じで売り買いされた一部企業の株式が乱高下して問題化しました」
SNSが持つ大きな力が金融市場で認識されたわけだが、それが今回、銀行ビジネスにも大きな影響を与えることが明らかになった。
「SNSでは一部の情報が切り取られたり、ある意見が真偽とは関係なく、大きく膨らんでいったりする。今回の銀行破綻でSNSがどう働いたのか、これから分析されていくと思いますが、そこまでの影響が出てしまうのが怖いところです」
特殊なビジネスモデル
SVBはサンフランシスコに近い、IT企業が集まるシリコンバレーと呼ばれる地域を拠点に業績を伸ばしてきた銀行である。
「日本ではあまり名前が知られていませんが、比較的大きな地銀で、設立されたばかりの、いわゆる『スタートアップ企業』を主な顧客としています」
さらにSVBはベンチャー企業を生み出して、育てる「ベンチャー・エコシステム」の一環であり、それに依存して成長してきたと、野村主任研究員は指摘する。
「だからこそ、シリコンバレーという名前がついているわけで、この地域に根づいたかなり特殊なビジネスモデルを持つ銀行といえます」