


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【写真】映画「ある船頭の話」の場面写真と、もう1本 おすすめDVDはこちら
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「なんでお前は映画を撮らないんだ?」
クリストファー・ドイルのその一言から本作は動き出した。ドイルが撮影・共同監督した映画「宵闇真珠」(2018年)にオダギリジョー監督が俳優として参加していたさなかのことだ。ドイルの言葉に、撮らない理由もないのに自制していたことに気づいた。
さらに、監督業に駆り立てた理由がもう一つ。当時、健康診断であまり良くない結果が出たのだ。
「自分の命の限りを考えてしまったんです。やり残したことの一つに映画がありました。自分の人生をかけて、一本の映画を残しておきたい。そんな気持ちからこの企画が走り始めました」
書きためていた脚本の中から本作を選び、まずドイルに連絡、協力を取り付けた。時代の変化に直面した初老の船頭を通して「本当に人間らしい生き方とは何か」を問う。
物語の構想の大きなきっかけとなったのは、文化や国の在り方、社会の仕組みが日本とは全く異なるキューバに行ったことだった。
「人間らしく楽しそうに生きているキューバの人たちを見た時に、便利な社会で生きている日本人よりも充実した人生を送っているのではないかと思いました。それがうっすらながら、ずっと消えずに残っていた。幸せを感じながら生きるというのは、どちらの国の暮らし方なんだろう。そんな気持ちを脚本にしてみようと思ったのが10年くらい前のことでした」
明治後期から大正を思わせる時代、船頭のトイチ(柄本明)は人々を舟で渡し、橋がない村と町とをつないでいた。しかし、そんな村にも文明開化の波が押し寄せる。川上では煉瓦造りの大きな橋が建設されていた……。
もともとトイチはオダギリ監督が自身にあてて書いたキャラクターだ。柄本さんが引き受けてくれたことで、
「同業者だからこそわかる柄本さんのすごさを引き出せればと考えました」